火事で全焼した“曰く付きの一軒家”
さらに山道を進み続けると、森の中に、不自然なほどに真っ黒で巨大な影が突然現れました。まるで二人を待ち伏せしていたかのように、何の前触れもなく現れたその“影”に驚いてしまい、これが目的の建物だと理解するまでに少し時間がかかったそうです。
真っ黒い人工物は、暗い森の中で、陰影だけが不自然に浮き上がっていました。
暗さに目が慣れ始めると、その影は、どうやら二階建ての一軒家だったように見えましたが、はっきりしません。そして、携帯のライトで一部を照らすと、真っ黒な柱に、真っ黒な壁であることがわかりました。そして焦げ臭い……。
そうです、それは火事を起こして全焼した建物だったんです。その火事で、小さな女の子と、その母親が亡くなったそうですが、それだけでは心霊スポットとは呼ばれません。
実は、出火した時、父親は火の熱さに耐えかねて、二人を助けることなく逃げ出したのです。家からは助けてと叫ぶ二人の声がしていましたが、父親はそのまま助けに行かずに見殺しにしてしまった。その日から、この家では、深夜その親子の叫び声が聞こえる――。
彼女にこの話をして、早く帰ろうと嫌がる彼女の手を強引に引っ張って、建物の中に入っていきました。
家の中は焼け焦げて、もとは何だったのかも分からないものが散乱していましたが、ふと見ると、黒焦げの椅子があり、その上には人形が置いてありました。人形は全く焼けておらず、後から誰かが置いた物だとAさんは思ったそうですが、いきなり彼女はその人形を持ち上げて、嬉しそうにこう言いました。
「かわいいお人形さん。私の友達にしよう」
彼女の叫び声が聞こえる
Aさんは「気味が悪いから捨てろ」と言ったそうですが、彼女はその人形を絶対に離してくれません。
怖くなってきたAさんが、もう帰ろうと彼女の腕を引っ張ったのですが「もう少し居ようよ」と人形を撫でています。
さっきまで怖がっていたのが嘘のように、彼女は建物から出ようとしません。そこでAさんは、先に建物から一人で出れば、怖くなって出てきてくれるだろうと考えて、ひとりで建物から外に出ました。
しかし彼女はついては来ませんでした。まるで自分が置き去りにされたかのようで不安になったAさんは、外から彼女の名前を大きな声で呼びます。
すると中から彼女の叫び声がしてきたのです。
「熱いよ助けて、熱いよ助けて!」
混乱したAさんは「早く出てこい」と更に叫びます。
しかし、彼女から返答はありません。何度か叫んで、ようやく聞こえてきた声は……。
「熱いよ、助けてよ、パパ助けてよ」
女の子の声が聞こえて来たそうです。