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2021/01/03

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 読書, 社会, 働き方

こんな仕事、女には絶対にムリ!!

 当時の私のお客さまたちは、5件、6件と別の会社に借入がある人がほとんどだった。

 だからいつも複数の会社から督促を受けていて、電話をかけてもそう簡単に支払いができる状態ではない。男性は、逆切れしたり怒鳴り散らして支払いを拒否する。女性でも怒鳴る人はいたけど、泣き出してしまう人も多かった。すんなりと払ってくれる人なんて全然いなくて、電話をかけるとなぜか「殺す」だの「死ぬ」だの、穏やかじゃない言葉が返ってくる……。

(こんな仕事、女には絶対にムリ!!)

 数日間、朝から晩まで怒鳴り続けられて、私は早々に悟った。

 だってどう考えても人生の修羅場をくぐってきた海千山千の多重債務者の方々に、この前までぬくぬくと大学生活を送っていた小娘が口先で敵うわけがないじゃないか!

©榎本まみ

 会社に行くことはイコール怒鳴られに行くことだった。私はげっそりとやつれ始めた。でも、ここはまだコールセンター地獄の一丁目。ただの入口に過ぎないということを私はこれから嫌というほど思い知らされることになる。

勤務時間は朝7時から終電!?

 ある日のこと、電話を終えてフラフラと帰ろうとしている私に、課長からお呼びがかかった。

「明日は7時に来てね!」

「へっ!?」

 お金を貸すことを業務とする私たちカード会社や消費者金融が守っている法律「貸金業法」では、督促をしていい時間というのは朝の8時から夜の9時までと定められている。

 だから私の働くコールセンターも、法律に準じて朝の8時から夜の9時までが営業時間だった。

「今まで9時出社だったのに、なんで2時間も早まるんです!?」

 思わず涙目で抗議する私。

「おいおい、いつまで新入社員扱いされると思ってるのよ~?」

 笑顔を浮かべていてもばっちり目は笑っていない高田純次に肩を掴まれて、私は必死にこくこく頷くしかなかった。

朝から戦争……

 朝の8時からお客さまへの電話をスタートするということは、その時間までに電話をかける準備が整っていなければいけないのだ。

 新米の私に与えられた仕事は、山と積まれた督促表の中から前日までに入金になったお客さまの表を抜いて記録を残し、朝8時の電話スタート時間までに電話をかけられる状態に整えておくというもの。

 今までぬくぬくと9時に出社していたのはモラトリアム期間で、言われた通り7時に出社してみると、朝は戦争だった。

「動きが遅い! 何やってる!」

「す、すみません!!」

 先輩の檄が人もまばらなコールセンターに響く。

 朝出社すると、まず前日までに入金になったお客さまのリストをチェック。ここで間違えて入金になっていないお客さまのリストを破棄なんぞしようものなら、大変なことになる。二重三重にチェック。そしてきれいに整えた督促表を机の上に置いておく。

 すると少し遅れてぞろぞろと出社してきたコワモテ黒スーツ軍団が督促表を受け取って席に着き、8時きっかりから「ご入金をお願いします!」と電話をかけ始めることができるのだった。

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