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(や、やっと終わった……)

 肩で息をつきながら、なんとかギリギリで督促表のメンテナンスを終わらせると、自分たちもすぐに電話に加わらなきゃいけない。その後は朝8時から夜の9時まで、食事以外はほとんど休みなく電話をかけ続ける。入社初日に先輩に言われた1時間60本のノルマをこなせなかった私はほとんど休憩が取れなかった。

夜9時からは「手紙の時間」

 でも残念ながら、夜9時に電話が終わってもまだまだコールセンターからは出られない。それからは通称「手紙の時間」が始まるのである。

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 私たちは電話で督促をしているのだけれど、いくら電話をかけても、どうしても電話に出てくれないお客さまがいる。そういった電話で連絡がつかないお客さまには「督促状」と言われる書面を送って入金のお願いをするのだ。

 夜9時を過ぎて電話がかけられなくなったら、今度は督促状を一枚一枚発送する作業が待っている。通常は印刷された文面を送るのだけれど、長期にわたって入金のないお客さまにはわざわざ手書きで督促状を書いて送ったりしていた。たしかに手書きの文字の方が、なんとなく効果がありそう……なのかな?

 この作業は終電ギリギリの時間まで続けられるので、朝7時から夜11時過ぎまで私たちは会社に閉じ込められる。

 終電が11時って、早いと思われるかもしれないけれど、私たちの働くコールセンターはなぜか都心から外れた郊外の住宅街にあって、駅まで20分ほど歩かなければならなかった。11時に会社を出なければ多くの社員が最終電車に間に合わなくなってしまう。

©iStock.com

 後からわかったことだけど、私が配属されたばかりのコールセンターは、本当にできたてほやほやで、パソコンもシステムも何もなく、電話と紙という最低限の装備でお金を回収しなければならないイレギュラー中のイレギュラーな状況だった。

 後にパソコンが導入されると入金のチェックも督促状の発送ももっと短時間で行うことができるようになり、9時過ぎには退社できるようになったのだが、そんなことは、当時はわからない。

人事への呪い

(なんだこれ、こんな仕事ぜったいおかしい!!)

 督促という仕事の内容も、職場の環境も、思い描いていた社会人像とは遠くかけ離れていた。

 ひょっとしてここは“ブラック企業”というやつなんじゃないか……? という考えが頭をよぎる。

 けれど、コールセンター以外の部署に配属された同期に話を聞くと、その同期はちゃんと9時から18時の勤務時間で仕事をしているのだ。

(ず、ずるい!!)

 私は全力で人事を呪った。私が配属されたコールセンターだけが特別なブラック企業ならぬ、“ブラック部署”だったのだ。