「人見知りで話しベタで気弱」を自認する新卒女性が入社し、配属されたのは信販会社の督促部署! 誰からも望まれない電話をかけ続ける環境は日本一ストレスフルな職場といっても過言ではなかった。多重債務者や支払困難顧客たちの想像を絶する言動・行動の数々とは一体どんなものだったのだろう。

 現在もコールセンターで働く榎本まみ氏が著した『督促OL 修行日記』から一部を抜粋し、かつての激闘の日々を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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ここは強制収容所?

(これって、ホントにコールセンター?)

 社会人になった記念すべき第1日。私が連れていかれたのは真っ白で殺風景な、なんにもない部屋だった。

 部屋の端から端まで隙間なくきっちりと並べられている机。その上にはポツンとグレーの電話がのっているだけ。

〈コールセンターに配属す〉

 おかしい。私はついさっき、そう辞令を下されたはずなのに。

 コールセンターといえば、パソコンが並べられた机がブースで仕切られて、女性のオペレーターがイヤフォンとマイクをつけて座っている、そんな場所じゃなかったっけ?

 でも、そこは、そんな想像とは全く違う部屋だった。

 採光のための窓ははるか遠くに1カ所だけ。全体的にせまくてうす暗くて、コールセンターというよりはむしろ「倉庫」と呼んだほうがよさそうだ。

 私が連れていかれたのは、ほんの1カ月前にできたばかりの即席で作られたコールセンターだった。

 出来たてというより出来かけで、装備されているのは机と電話機だけ。パソコンなどといった文明の利器が導入されるのは、それから半年も先だった。

1時間に60本の電話!?

「ぼさっとしてないで、1時間に最低60本は電話して!」

 一緒にコールセンターに連れてこられた同期たちと部屋のなかで立ち尽くしていると、私たちをこのコールセンターに連れてきた先輩がいきなりバサリと目の前に電話帳ほどの厚さのある紙の束を投げつける。それは「督促表」と呼ばれるお客さまのデータが細かく記載されたカルテのような書類だった。

(え、え、何? これから何がはじまるの?)

©iStock.com

 所在なく右往左往していると、後からぞろぞろと連なってコワモテの男性たちが部屋に入ってきた。彼らはおもむろに机の上に置かれている督促表を掴むと、次々と電話しか置かれていない机に座っていく。白い部屋は一瞬にして黒とグレーのスーツの色に染まった。

「ご入金をお願いします!」

「入金の確認が取れていません」

「支払い日をもうかなり過ぎていますよ!」

 一斉に電話をかけ始めた黒スーツ軍団の群れからは、こんな恐ろしげな言葉が漏れ聞こえてくる。「お金返してください」――ああ世の中にこれほど、誰ひとりとして望んでいない電話があるだろうか。

 でも、その電話こそが、私がこれからしなければならない「督促」という仕事だった。