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「直接話そうじゃねぇか!」「もうすぐ着くからな!」督促電話に逆ギレした債務者の“恐怖”の行動

『督促OL 修行日記』より #3

2021/01/10

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 読書, 社会, 働き方

note

家族を守ろうとした行動が本人の信用を損ねてしまうことも…

 しかし、こういうケースは結局家族に阻まれて最後まで本人とお話ができず、長期延滞になって初めて「カードが使えないんだけど……」と本人から問い合わせが入ることがままある。でも、その時にはもう手遅れで、カードは解約になってしまっていてどうにもならない。会社名を名乗れないジレンマに加え、ご家族が契約者さまを守ろうと取った行動が、結果としてご本人の信用を損ねてしまうことになるのは、なんだかやり切れない。

©榎本まみ

(家族に内緒で利用できてしまうカードが悪いのかな。でも自分のご主人や奥様のことを信用して電話を取り次いでくれる伴侶だったら、契約者さまも内緒でカードを利用しなかったかもしれないなぁ……)

 私は、弱冠20歳そこそこで夫婦の深淵を見る思いがした……。

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初の指名電話は“襲撃予告”

「わかった。そこまで言うなら、直接会って話そうじゃねぇか。N本とかいったな。今から高速飛ばして行くから待ってろよ!」

 その時私が電話をかけていたのは、30代後半の、××工業というお堅い社名の会社に勤める男性のお客さまだった。

 私はなかなか支払いをしてくれないそのお客さまに食い下がって、入金のお願いをしていた。この時はいつもすぐ言い負かされてしまう私にしては珍しく、支払い日を延ばそうとするお客さまに必死に食らいついていた。

「だから、×日に払うって言ってんだろうが!」

「い、いやいや、そこを何とか……!」

 そんなやり取りを続けること数十分。なかなか言うことを聞かない私にしびれを切らしたのか、相手は物騒な捨て台詞を残して電話を切ってしまった。

(え、ここに来るって……? ま、まさかね……?) 

 長時間の交渉で、緊張しっぱなしで私はもう汗だくだった。その上お客さまの最後の台詞に嫌な汗が背中を伝う……。

 ちなみに私が働くコールセンターの住所は、お客さまに送られる督促状にバッチリ記載されている。会社のホームページにも載っているし「どこから電話かけているんだ?」とお客さまから問われたら、情報開示として正確な住所を言わなければならない。と、いうわけで、お客さまが来ようと思えば、私の職場には簡単に来ることができる。