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2021/01/10

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 読書, 社会, 働き方

先輩とお客様に謝ってばかりの日々

「ご、ご迷惑をおかけして申し訳ありません!」

 クレームを起こして先輩に謝りにいくのが日課となる。クレームが起こると電話でお客さまと話す時間が長くなるので、その分電話をかける件数が減ってしまう。すると、今度は電話をかける件数が少ないと怒られる。

「N本さんだめだよ、せめてもっとたくさん電話かけてくれなきゃ」

「す、すみません……」

©iStock.com

 何回謝れば気がすむのか!? と言うくらい私は先輩とお客さまに毎日謝っていた。

 あんまりにも仕事ができないと、自分の存在って邪魔なんじゃないかなーと考え始める。被害妄想もここまで来ると、たぶん病気の域に片足つっこんでいたんだと思うけれど、

「あの新入社員のN本ってホント使えないよな」

 というような陰口をたたかれているんじゃないかと、空耳すら聞こえてくるようになった。

お客を信じてはいけない

「今度こそちゃんと払いますからお願いしますよ!?」

「本当ですね!? 今度こそちゃんと払って下さいますね!?」

 ある日、私はお客さまに必死に頼み込まれて支払いを自分の待てる期限のギリギリまで待つ約束をした。

 私がしているのは「初期督促」という延滞が発生してから2カ月間までのお客さまへの督促だ。支払いが遅れて2カ月目までに入金してもらえなければ、そのお客さまは「長期督促」を行っている部署へ移管になってしまう。

 私の成績はこの2カ月目までに、どれだけ多くのお客さまに入金してもらうかにかかっている。「長期督促」の部署に移ってしまうと、お客さまのカードは解約になって使えなくなるので、会社の利益的にもマイナスだ。

 お客さまに強く言えなくて入金の約束を守ってもらえない私は、この時も成績がギリギリだった。でも、電話口でのお客さまのせっぱつまった様子から、なんとかこのお客さまの言葉を信じたいと思った。

 ところが、約束の日になっても入金がない。私があわてて電話をかけると、

「あ、ごめんN本さん、あの時はああ言ったんだけど、やっぱりお金ないから払えないんだよね」

「そ、そんな、お客さまぁ……!」