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2021/01/10

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 読書, 社会, 働き方

大長編私小説を読むのも仕事

 ちなみにお客さまからはモノではなく、手紙をいただくことも度々ある。事情があって支払いが遅れちゃうけど、電話で話すのが苦手という人もいるのだ。ハガキ一枚に「○月×日に払います」とだけ書いてあるものから、「何これ?? 本!?」と思うくらいに、何万字もワープロで綴った分厚いお手紙まで。そこにはどうして自分が支払えなくなったのか、世の中の無情、政治の責任についてなど、ストーリー形式でお客さまの心の内が書いてあった。

「はい、これ、内容全部パソコンに記録しといてね」

 先輩は分厚い手紙の束を私に押し付けてくる。郵送物は中身を全て確認し、内容を記録に残すのも新人の私の仕事だった。

「か、かんべんして……」

 大入りキャベツの段ボールと、めくるめく長編私小説の前で、私は頭を抱えた。

私、回収の才能なさすぎ!?

 情けないけど督促を始めてしばらくたっても、私は全然回収ができなかった。壁に貼られた回収金額の成績表はいつも最下位。怒鳴るお客さまには言い負かされ、泣き落としのお客さまにも強く言うことができず、私の自尊心はもう、ボロボロだった。

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「××カードのN本です、ご入金のお願いでご連絡したのですが……」

「あのさぁ、いくら電話かけてきたってないものはないよ、今度電話かけてきたら俺死ぬよ、そしたら残された家族の面倒はみてくれるんだろうねぇ、N本さん?」

「ええ!? そ、そんなこと言われても……!」

(やっぱり女にはこんな仕事向いてないんだよー)

 自分がダメな理由を性別に責任転嫁したりするけど、皮肉なことに私と同期入社の女子社員A子ちゃんは、どんどん成績を上げて、朝礼で成績上位者として名前を呼ばれるようになっていた。

「A子さんは頑張ってるねぇ!」

(うっ……)

 同期のA子ちゃんが上司に褒められるのを聞く度に、その言葉の裏では「お前は使えない」と言われているようで、ものすごく焦る。

 なんとか回収数字を上げなきゃ! と、慣れない言葉使いでお客さまに強めに督促してみたりするも、自信のなさがバレバレで、かえってあげ足を取られたり、あまつさえクレームを起こしてしまったりした。私、まったくいいところがないんですけど……。