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誕生からの歴史は100年以上…回りくどいはずの「密室殺人」がミステリの王道になった2つの理由

『書きたい人のためのミステリ入門』より #1

2021/01/02

genre : エンタメ, 読書

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 どうしたら一晩でそんなことができるのか? 当然そこには裏があるのだが、そんな手の込んだことをした理由、どうやってそのトリックを看破したのか等々、読みどころ満載。家屋消失で終わらないのもこの作品の魅力で、「それだけじゃなかったのか」という嬉しいサプライズが畳み掛けてくる。中編ながら、クイーンの代表作の一つ。

王道ど真ん中、密室

 物理的な「謎」の王道は、やはり「密室」だろう。

©iStock.com

「密室」とは、文字通り密閉された部屋であり、内側からすべての鍵が掛かっているなど、「出入り不能な閉鎖空間で人が死んで」いて、「自殺ではなく、明らかに他殺である」状況を「密室殺人」と呼ぶ。なぜそんな回りくどいことをするのかというと、理由は大きく二つ。

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 一つは、自分を犯人候補の圏外におくため。死体に多少不審な点があっても、「誰も出入りできない部屋で死んでいたのだから、覚悟の自殺か事故だろう」と思わせるためだ。ところが、何らかの事情で他殺であることが発覚すると、不自然な犯行現場だけが残されることになる。

「結果的に」密室になるパターン

 もう一つは、元々密室になるはずがなかったのに、偶然や第三者の存在が作用して、「結果的に」密室になってしまったという場合。犯人でさえ、どうして密室になったのか分からないこともある。

 敢えて他にも目的があるとすれば、それは『三毛猫ホームズの推理』(赤川次郎)を読んでもらうのがいい。〈三毛猫ホームズ〉シリーズの記念すべき第一作でもあるこの作品では、中からカンヌキのかかった密室内で死体が発見される。頭蓋骨と脛骨が骨折していることから他殺と思われるが、当然、犯人の姿はない。また、部屋そのものもおかしな様子になっている。意表を突く発想で見事に解決されるこの密室は、現代だからこそ可能になったものの一つだろう。

 こうした物理的な密室以外でも、鍵は掛かっていないが、監視者がいて、誰も出入りしていないことが確認されている場合、入った者はいるが出た者はいないケースなど、様々なヴァリエーションがあり、先ほど挙げた「天外消失」は、そういった意味では「密室物」ということもできる。