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誕生からの歴史は100年以上…回りくどいはずの「密室殺人」がミステリの王道になった2つの理由

『書きたい人のためのミステリ入門』より #1

2021/01/02

genre : エンタメ, 読書

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密室の巨匠

 ジョン・ディクスン・カーは、もう一つのペンネームであるカーター・ディクスンと共に、生涯にわたって密室物の執筆にこだわり、「密室の巨匠」とも呼ばれた。

 そのカーの代表作に『三つの棺』という作品がある。密室物としても有名な作品だが、別の面でより知られているかもしれない。

 作中に、「密室講義」という一章が設けられているのだ。1935年の作品にして、探偵役のフェル博士が、自分たちを作中人物だと公言してしまうメタ構造の斬新さも凄いが、密室を極めた作家が自ら分類整理した「密室」のタイプとその解説は大いに勉強になる。基本的な密室のヴァリエーションは、ほとんど網羅されていると言っていい。

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©iStock.com

 そしてこの「密室講義」に触発されて書いたと言われるのが、江戸川乱歩の「類別トリック集成」(『続・幻影城』所収)。タイトル通り、密室に留まらず、トリック全般を整理して網羅した乱歩の労作である。

 これらは文字による解説だが、映像化でもない限り実際には見ることができない密室を、イラストをふんだんに使って紹介した本がある。『有栖川有栖の密室大図鑑』(有栖川有栖・文/磯田和一・画)は、「こんな密室があるんだ」と眺めているだけでも楽しいし、読みどころも解説してあるので、恰好の密室ガイドになるだろう。

 ただし、「密室大図鑑」はネタバレのないよう配慮してあるが、「密室講義」、特に「類別トリック集成」には、具体的な作品名が結構出てくる。超有名作品のネタを読む前に知る、ということになり兼ねないので、注意されたし。

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