死期が迫った人はしばしば、誰かがそばにいるような反応をみせることがある。終末期患者の看取りに長く関わってきた医師、河原正典氏は、この「お迎え」体験と呼ばれる現象について、社会学者らとともに体系的な調査を行ってきた。遺族1700人超に行ったアンケートの結果、みえてきたものとはいったい……。

 幻覚やせん妄の一種なのか、それとも実際に誰かが本人を迎えにきているのか。宝島社より発行された書籍『「お迎え」体験』(宝島社新書)を引用し、河原正典氏の見解を紹介する。

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1000人以上の「お迎え」体験データ

 いま私の手元に2つの資料があります。「2011年実施 在宅ホスピス遺族調査」と「2015年実施 在宅ホスピス遺族調査」の2つの報告書です。

 これらの報告書は岡部健の主導で2007年までに行われた「お迎え」体験調査の継続調査という側面を持ち合わせていますが、それまでと大きく違うところは、これらの調査が科学研究補助金を得て人文・社会学などの研究者と協力し、在宅ホスピスについて、複数の診療所でより多角的な視点で行われたことでしょう。

 調査の形態は遺族に対するアンケートが基礎となっています。2007年の調査では、調査エリアが宮城県内の一診療所(岡部医院)の利用者にとどまっていたのに対して、2011年の3次調査では宮城県の5診療所、福島県の1診療所の利用者に拡大し、2015年の4次調査では宮城県5診療所、福島県2診療所の利用者と、調査エリアをさらに拡大しています。

 それによって「お迎え」体験が宮城県だけの話ではなく、福島県にも見られる、ある一定の普遍性を持った現象であることを見出そうとしました。調査の対象は「お迎え」体験だけでなく、遺族の在宅緩和ケアに対する感想なども含まれています。

 たとえば「余命告知の是非」「在宅ケアを中断した場合のその理由」「故人が在宅死したことへの評価」「回答者自身の在宅死への感想」、さらに「在宅での看取りを通した死生観の変遷」……。それらに対する答えをアンケートで得ることによって、私たちが遺族に提供できなかったものを把握し、在宅緩和ケアの向上につなげることを目的としました。

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 2011年の報告は、2007年1月から2009年12月までに看取りを行った家族に対する調査で、アンケートを送付した1191件のうち、得た回答は575票。2015年の報告は、2010年1月1日から2014年2月28日までに在宅ケアを行った家族に対する調査で、調査協力のお願い書面を送付した2223件のうち、663票の回答を得ることができました。

 では、回答者たちは「お迎え」体験をどう捉え、そこから何を感じてきたのでしょうか。本調査研究員の1人、諸岡了介(島根大学教育学部准教授、当時)がまとめた報告をもとに、私見も交えながら説明していこうと思います。