星野源にも及んだ「文化の政治化」の波
「文化の政治化」の波は、平匡を演じた星野源にも及んだ。緊急事態宣言中のステイホームに彼がSNSで利用を許した楽曲「うちで踊ろう」は時の総理大臣に「政治利用」され、星野源はそれに対して「他の人たちと同じように、事前確認はなかった」とコメントした。だがそのコメントに対しても、「政権に賛同したわけではないという意志を表明した」と歓迎する人たちと、「もっと明確に政権を批判せよ、日和見的だ」という非難がSNS上で半ばした。
「いつも嘲りあうよな 僕ら」と星野源は放送の2日前、12月31日の紅白歌合戦で「うちで踊ろう」の歌詞に二番を加えた大晦日特別版で歌った。それはこの年に彼に起きたことに対するひとつの答えのように思えた。
大きなヒットを生んだこの物語は、みくりを演じた新垣結衣にも大きな影響を与えた。この作品以降、圧倒的な人気にも関わらず出演作は『コードブルー劇場版』や『獣になれない私たち』など、少数の良質な作品に絞られた。
新垣結衣は2018年、ブルーリボン賞の授賞式で、秋田への旅行中に料理店のショータイムで出会った「なまはげ」の話を急に語り始めた。なまはげの面をかぶった演者は、新垣結衣の隣に座り、「貧しくて病院に行くお金がない人たちがいたような昔の時代、みんな身体を悪くしたらどこに行ったと思う?」と彼女に語りかけ、「どこですか?」と聞き返すと「劇場に行ったんだよ」と答えたのだという。
「なまはげがですよ」と会場を笑わせながら、そして「本当か嘘かわからないんですけど」と慎重に前置きをしながら、新垣結衣はおそらく、自分の仕事が人々の「役に立つのか」ということを問い直していたのだと思う。
2021年1月2日に放送される『「逃げるは恥だが役に立つ」ガンバレ人類!新春スペシャル!!』は、一度は9巻で完結した原作を再起動して描かれた10巻以降の物語になる。それは「魔法が解けたあとの物語」、おとぎ話が終わったあとの2人の話である。
平匡とみくり、この国の「失われた世代」の男女に支持され、象徴となった2人は何を語るのだろうか。マイノリティたちの価値観を束ねた花束は、再びこの国の視聴者、マジョリティに届くのだろうか。それが進歩的な物語か、あるいは「ひとまずは逃げる」ように後退的であるかは分からない。だがそれはきっと、誰かの役に立つために書かれた物語になっているのではないかと思う。