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「家族歴」は検証可能な方法で提出されていない

 明らかになっていないポイントは他にもある。白石被告が、どんな風に生きてきたのかという生育歴だ。精神鑑定では、鑑定医が被告人と21回、合計62時間の面接や医学的検査、心理検査を行っている。また、父親の面接結果や母親の捜査段階の供述調書、母子手帳などを検討し、「家族歴」を鑑定書とは別にまとめているとして、判決では「検討が不十分であるとは言えない」とした。

筆者が白石被告と面会した拘置所 ©渋井哲也

 しかし、「家族歴」は検証可能な方法で提出されていない。また、母親の証言は捜査段階のみで、精神鑑定に必要な面接を行なっていない。もちろん、今回の犯行と家族歴とには因果関係があるとは言えないが、このあたりが明らかになっていないために、全体として事件の解明という点では消化不良な気がしてならない。

 そして、冒頭の言葉に戻ると、裁判官としては白石被告の主観的な思いを聞きたかったと思えるような質問だが、白石被告はSNSの状況について述べた。意図的に主観を明かすのを避けたのか、あるいは質問の意味を誤って理解したのか――。判決が示すように、「記憶の限り素直に」答えていた印象は筆者も感じたが、本心はなかなか見せなかったのではないか。

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©渋井哲也

 死刑判決を受けた白石被告の弁護人が控訴していたが、12月21日になって白石被告本人が控訴取り下げ書を提出した。2021年1月5日0時には、死刑判決が確定する予定だ。このまま本心を明かすことなく、死刑執行を待つのだろうか。