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「ええ女やな、2、3000万出しても何でもない』

「カジノのディナーショーには、彼女の茨城の両親や妹まで招待されていました。ご両親たちはいたく水谷会長に感謝し、嬉しそうでした。番頭の織田社長は、縫製工場の経営の苦しかったあけみのご両親に対しても援助していたと思います。家族ぐるみであけみの面倒を見ていたのでしょうね」

 しかし、芸能界はそうは甘くない。結局、鹿谷あけみは持ち歌のCDを一枚出しただけで、あとは鳴かず飛ばすになる。

「おい、そろそろ織田とあけみを別れさせや。もうあかんわ。織田は仕事に身が入らんでな」

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 水谷功は、織田とは違う社外の水谷ファミリーにおけるもう一人の“番頭”、横溝祐樹(仮名)にそう命じた。

「心配いらん。あけみにはわしがちゃんと次の旦那を探したるでな」

 横溝は新しく水谷建設グループと取引を始めたばかりの貿易商を水谷に引き合わせた。新参者の重機ブローカーだ。そうして、重機ブローカーがあけみの次のパトロンに指名された。

「あれ、松原のぶえの前座歌手やったんや」

©iStock.com

 水谷に重機ブローカーを紹介した横溝に聞くと、本人がこう認める。

「あけみは松原のぶえから、ドレミがうまく歌えないのはあかんつって、ほうり出されてもうたらしい。もともと、織田が面倒見てたんやけど、もう精一杯やったんや。金が続かん。レコードを出すのに2、3000万かかっとるのに、もう一回出してって、言われたらしい。だから別れたかったんやと思う。女もそれ分かったもんやでな。そんなときちょうど、水谷会長と取引を始めたがっていた重機ブローカーがいたんや。で、彼女を見て、『ええ女やな、2、3000万出しても何でもない』というので、くっつけたんや。けど、そしたら、織田がえらい怒ってもうて、困りましたわ」

飛び交う賄賂

 水谷功が鹿谷あけみを重機ブローカーと結びつける目的は、もとより側近の織田の仕事にさし障るという理由だけではない。水谷功は、身のまわりに信頼して裏金づくりを任せられる人間をもっと増やしたかった。一方、くだんの重機ブローカーにとっても、常に1000台以上の重機類を抱える重機土工業者として日本で指折りの水谷建設グループと取引するのは、願ったりかなったりである。事情を知る別の水谷の側近が話す。

「彼との初対面では、高級フグ料理をご馳走になりました。水谷会長ほか四人いたのですが、その重機ブローカーは25万円もした料理の代金をポンと払うではないですか。そうこうしていると、今度は、68万円もするバカラ製の花瓶と馬型時計セットが贈られてきた。さらに次には、『これ、水谷会長のために使ってください』と現金を1000万円も置いていきました。それで、彼はすっかり会長の信頼を得ました」

 まさしく嘘のような、本当の話だ。もっとも、これは男女の単なる色恋沙汰にとどまらない。奇しくもこの愛人のドタバタ劇が、のちに大物代議士事務所をめぐる、ある恐喝騒動に発展するのである。