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「羽生世代というか、羽生さんが…」10歳からの好敵手が秘める天才・羽生善治への本当の思い

『証言 羽生世代』より #2

2021/01/07
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最先端の指し方をしている小学生たち

──森内さんは2020年で50歳になります。棋士人生の終盤戦に差し掛かっていますが、今後は何を目指しますか?

森内 理事の2年間は対局のことは考えられませんでしたが、辞めたいまは少し余裕もできました。最近の将棋を少し調べてみたら、若い人の指し方が昔とはずいぶん変わっていて興味深かったです。でもそれはプロだけではないんですね。この前、小学生の全国大会で六面指しで指導をしたのですが、みなレベルが高くて驚きました。将棋の内容がプロはだしというか、最先端をいっているんですよ。こういう人たちの中から藤井聡太さんのライバルが出てくるんだろうなと思いました。ただみんな、指し方がなんというか……。

©iStock.com

──似ているというか、将棋ソフトっぽい感じですか?

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森内 その子の個性というか、明確な特徴があまり見られませんでした。勝たなければいけないので、棋力を上げることがいちばん大事なことというのは重々承知しています。ただ同時にプロになる以上は魅力的なものを出していかなければ、この世界の発展にはつながりません。いまはソフトがあるので、考えること自体もどういうことなのか問われ始めています。まさかソフトの真似をして勝つために棋士になるわけではないでしょうから。そのあたりのバランスはすごく難しいですけど、何かヒントになるようなものを示していければいいなとは思っています。

──皆に尋ねている質問ですが、なぜ羽生世代にこれだけ強い棋士が集まったのでしょうか。

森内 いろいろな要素があると思います。単純に子どもの数が多い時代でしたし、趣味がいまほど多くなかったので、将棋に向かう人が多かった。あと1983年に谷川さんが21歳の最年少名人になられて将棋界が注目を集めたことも大きいでしょう。ただやっぱり羽生さんの影響は計り知れないと思います。彼が中心となっていろいろな物事を成し遂げていくことに刺激を受けて、周りの人も高いモチベーションを維持しながら自分のよさを引き出して伸びていった。周りに優秀な仲間がいれば底上げにもつながりますし、全体のレベルや考え方にも影響を与えます。それは羽生さんにとってもプラスだったでしょう。才能があって可能性がある人たちが集まることで、さらに活性化していったのだと思います。

同世代に優秀な仲間がいてトクをした

──森内さんは実力がありながらも、30歳を過ぎるまでタイトルを獲れませんでした。同世代に強い人たちがいることのデメリットはありませんでしたか?

森内 将棋は一人で強くなるのはなかなか大変です。「この人に勝ちたい」と思える人がいるのはものすごくプラスになります。刺激がないまま何十年も先輩に挑み続けるのは、気持ち的に盛り上がらないでしょう。あとやっぱり技術的に高いレベルの人が近くにいたほうが、絶対に自分も伸びますよ。私は同年代の仲間に勝とうと思ってやってきたら、上の世代の人たちと戦えるような力がたまたまついたところもあります。小学生からの将棋仲間が棋士になって七冠を制覇したり、タイトルを99期も取ったりするなんて、普通はありえません。ほかにも優秀な仲間がいてすごく環境に恵まれていて、自分がいちばんトクをしたと思っています。

証言 羽生世代 (講談社現代新書)

大川 慎太郎

講談社

2020年12月16日 発売

「羽生世代というか、羽生さんが…」10歳からの好敵手が秘める天才・羽生善治への本当の思い

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