文春オンライン

「羽生世代というか、羽生さんが…」10歳からの好敵手が秘める天才・羽生善治への本当の思い

『証言 羽生世代』より #2

2021/01/07

46歳で「フリークラス転出」の理由

 耳を疑うようなニュースだった。

 2017年3月。順位戦A級から陥落した森内は次期を順位戦B級1組で指さず、フリークラスに転出することを発表したのだ。これはプレーヤーとして第一線から自ら退くことを意味する。順位戦を指さないということは、名人戦への出場もなくなったということだ。当時、森内は46歳。2020年現在も羽生と佐藤康光が順位戦A級を維持していることを考えると早すぎる決断だった気もするが、森内は言う。

「当時のいろいろなことを総合的に考えた結果、いいタイミングかなと思って転出を決めました。自分の状態がよくなくて、再びA級に戻って名人を目指すというイメージが湧きませんでしたしね。少しスタンスを変えて、また別の方向で活躍できればという思いでフリークラスに転出しました」

ADVERTISEMENT

勝負師として難しい時期を迎える50歳手前

 実際、森内は2020年6月からユーチューバーとして自身のチャンネルを開設し、活動の幅を広げている。

 50歳手前は勝負師として難しい時期である。地位相応の責任も発生するし、将棋だけに集中することは容易ではない。

 佐藤は2017年から日本将棋連盟会長に就任し、森内もほぼ同時期に2年間、専務理事を務めた。修業時代からの仲間でもあり、佐藤に対して「思うことはいろいろある」と森内は言う。

「本当にすごい人です。AI全盛の時代で、これほど盤上で人と違うことをする人はいないでしょう。それでこれだけ勝っているのは信じられません。いまは将棋の勉強の時間は取れないでしょうし、そもそもの地力が段違いなんですね」

 佐藤の力を誰よりも認めているからこそ、複雑な心境も抱いている。

「いま、彼が会長として将棋連盟を引っ張っていることに感謝しています。ですが彼はやはり棋士なんです。世の中を見渡せば、彼より会長として適任な方はたくさんいるでしょう。でも、佐藤康光の将棋は彼にしか指せません。彼が将棋に注力できるような環境をつくってもらって、準備段階から本気の将棋をもう一度見たいという気持ちは強くあります」

 同世代のライバルには言葉が溢れて止まらないようだった。そして羽生にも──。

©iStock.com

──2018年末に羽生さんが竜王戦で敗れて27年ぶりに無冠に転落しました。どういう感想を持たれましたか?

森内 当時、私は専務理事として運営側だったので、まずは羽生さんの肩書がどうなるのかが気になりました。羽生さんがどういう決断をされるのかな、と。

──九段で指すことを羽生さんが自ら即決して、その問題は決着しましたね。ちなみに羽生さんはタイトル獲得数が現在99期ですが、100期に到達されると思いますか?

森内 99という数字はキリがよくないでしょうから、近いうちに100期目を取りに来るのかと思ったのですが、まだちょっと機会が訪れていませんね。私も評論家ではないので、そのあたりに言及するのは難しいですけど、やっぱり彼はとんでもない負けず嫌いですから、このまま99期で終わることは考えにくい。おそらくまた話題を提供してくれるのではないでしょうか。