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「にいちゃん、時間ないよ」と先導してくれる

 たいがい通ったけど、情が移ったらあかんから、同じ店には行かないようにして、次々といろんな店に入った。当時は、だいたいがやり手ばあさんが部屋まで案内してくれて、1万円くらいやったか。万札を1枚出すと、「にいちゃん、もうちょっと色つけといてぇや」と言われるけど、「こんだけしかないねん」と言うと、意外とあっさり「そうか、ほな」てな具合。藤本義一さんが、「飛田の値段はハイヒールの値段と一緒」ってテレビで言うてはった記憶があるけど、ちょうどそんな感じやね。

 コンパニオン風の洋服を着た女の子がお盆でコーラを運んでくる。で、僕は、

「自分、きれいなぁ」

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「その服、似合うなあ」

 とか、女の子をほめちぎって。22や23で一丁前なことやってましたね。

 飛田のタブーは、女の子に「どこから来たか」「この商売をどれくらいの期間やってるか」などとプライバシーを訊くこと。説教も嫌われる。そのあたりを心得て、天気がどうだとかと当たり障りのない話をするのがエチケット。年齢は「22」と言う子が多かったけど、実際はみんなもうちょっと年上やったと思う。こちらとしては、相手が同世代では照れるから、年上の人の方が気楽でしたね。

料亭内に飾られたぬいぐるみ 撮影/黒住周作

 少し話したら、女の子は「用意してきますね」で、部屋の外へ出て行って、またすぐに戻ってくる。部屋は、その女の子の趣味がよく出てて、ぬいぐるみいっぱいの部屋もあれば、「キャッツ」のポスターなんかを貼ってる部屋もあった。

 で、こちらがぐずぐずしてたら、「にいちゃん、時間ないよ」と先導してくれる。

 終わってからちょっと話をしたら時間になるから、内線電話で「終わりました」と言って、服を着て降りて行って終わり。

 まあ、そんなことを繰り返していたわけです、僕は。週1回見当だったから、3年で合計150回くらいは行ったのかな。そうそう、バレンタインデーには女の子がチョコレートをくれたし、「個人的につきあってほしい」と言ってきた女の子もいた。「彼女がいるからあかんねん」とウソをついて断ったけど。