「人権問題については国家免除は認められない」との考え方も
オ・スンジン檀国大学教授は「裁判所がどのような判断を下すのか、予想することはとても難しい」としながら、こう語った。
「国際法の伝統的な原則に照らし合わせれば、その国で起こされた裁判で他国を相手にした訴訟は成り立ちません。ただ、国際社会では伝統的な概念が間違っていたとする判決がでており、欧州では人権問題を扱う裁判については国を相手に訴訟は可能とする概念も少数ではありますがでてきています」
その例としてあげられるのが、イタリアとドイツ間で行われた裁判だという。今回の裁判でも原告側はこのケースを引用している。
これは、戦時中にドイツに捕らえられて強制労働させられたとするイタリア人が、1998年、イタリアの裁判所にドイツを相手に損害賠償を求め提訴したもの。ドイツは「国家免除」の立場をとって裁判却下を求めていたが、イタリアで行われていた裁判は一転二転しながらも、イタリア最高裁判所で原告勝訴の判決が確定した。ドイツは2008年、「イタリア最高裁の判決は国際法上の義務に違反している」として国際司法裁判所(ICJ)に提訴し、2012年にドイツの訴えが認容されている。
ICJの判決を受けてイタリアでは判決受け入れのための法改正をしたが、その2年後の2014年、イタリアの憲法裁判所は、イタリアの憲法により保証されている裁判を受ける権利を侵害しているとして、ICJの判決を違憲とし、「被害者を救済した」(韓国の国際法専門家)という。また、「ドイツは原則的には国際法により勝訴しましたが、イタリアの憲法裁判所の判決のほうが国際的には注目を集めました」とオ教授は話す。
8日の判決で日本政府が賠償を命じられたら
では、8日の判決が、日本の「国家免除」を認めず、日本政府に賠償を命じた場合はどうなるのか。オ教授は言う。
「原告が勝訴した場合は、日本は国家免除になるかどうかを争点にして控訴できるでしょう。ICJにかけるには両国の合意がなければなりませんから、交渉によって問題を解決するのか……。そもそもまだ一審ですし、最高裁まで進まないと判決は確定しませんが、もし原告が勝訴して、日本が控訴せず判決が確定すれば、次の段階は執行行為となります。
韓国内の日本国の資産が対象となりますが、他国の、たとえば、大使館や領事館のような公的なものは執行対象にはなりません。相手は『企業』と違って『日本国』ですから、原告側は公的目的で使われていない資産を探さなければなりません」