起訴された案件だけで7人が死亡している「北九州監禁連続殺人事件」。

 もっとも凶悪な事件はなぜ起きたのか。新証言、新資料も含めて、発生当時から取材してきたノンフィクションライターが大きな“謎”を描く(連載第41回)。

北九州監禁連続殺人事件をめぐる人物相関図

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『松永商店』や緒方純子名義で貸金業登録し、ダミー会社を設立

 1986年、松永太は布団訪問販売会社『ワールド』を経営する傍ら、祖父と父の時代の商号『松永商店』で福岡県知事に貸金業登録を行った。また同年、緒方純子も松永が提供していた福岡県久留米市にあるアパートの住所で会社を興し、貸金業登録を行っている。

 こうした信販契約を締結するためのダミー会社は、それ以降、いくつも作られている。また、松永は87年1月に、『ワールド』を有限会社から株式会社に組織変更した。当初は松永の父親が代表取締役を務め、祖父が監査役になるなどしていたが、松永が代表取締役に就いたのである。

 その『株式会社ワールド』(以下、ワールド)は、資本金500万円にかかわらず、会社登記簿の営業項目については、あり得ない大風呂敷を広げたものだった。

布団訪問販売会社『ワールド』の事務所兼自宅ビル(本社ビル)、2002年撮影 ©️小野一光

三井物産をまねた営業項目で、重厚長大な事業

 福岡県柳川市の行政書士事務所を訪れた松永は、「営業項目をこれと同じにしてください」と、大企業である総合商社・三井物産の登記簿を渡していたのである。そのため、ワールドの登記簿の営業項目には重厚長大な事業が次々と並ぶ。その一例を紹介すると以下の通りだ。

〈1.次の商品に関する貿易業、売買業、問屋業、代理店並びに仲立営業

 イ.鉄、非鉄金属およびこれらの原料、製品並びに鉱産物

 ロ.石油、石炭、天然ガスその他の燃料並びにこれらの副製品

 ハ.各種機械器具(計量器、医療用具を含む)、製造設備、通信設備、公害防止設備等の設備、車輌、自動車、船舶、航空機並びにこれらの部品〉

『ワールド』の登記簿より ©小野一光

 このように取り扱う製品だけでも、石油、天然ガスから航空機、さらには各種化学製品やセメント、工業用水など多岐にわたっている。