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従業員から搾取するために虐待・生活制限

 もちろん、これらがまったく実態をともなわないことは、百も承知のうえでのことだろう。それどころか、この時点でワールドは、本業であったはずの布団訪問販売業では、ほとんど収益を上げることができず、名義を借りて信販会社からカネを得る詐欺的な商法や、脅しや暴力などによって、従業員やその親族、さらには第三者に金策をさせるなどの手法で、なんとか会社を保っていた。

 それについて、福岡地裁小倉支部で開かれた公判(以下、公判)における、検察側の論告書には、以下のように記されている。

〈松永は、自社ビル建築費用等の多額の債務の返済に迫られ、名義借り商法等の帰結であるクレジット会社への弁済の資金繰りにも窮し、信販契約打ち切りを回避するため、(1)自身は詐欺的商法に何ら関係していないかのような外形を保ちつつ、従業員らに命じて更なる悪徳商法に手を染めさせ、その支払に対応するべく詐欺的商法を重ねるという悪循環に陥ったこと、(2)ワールドの従業員らにはまともに給料も支払わず、ろくな食事も与えずに労働を強いていたこと、(3)このような搾取を受ける従業員からの反発を防ぎ、彼らをして意のままに使役するため、多種多様な虐待・生活制限を活用して従業員を監禁同然に支配し、その抵抗心を押さえ付けていたこと、(4)従業員らの反発を未然に抑止するため、自らの背後には暴力団組織等が存在するから、従業員が反抗ないし逃走すればこれらの組織力で押え付ける旨脅迫するなどしていたことが、いずれも明らかに認められるのである〉

 なお、同論告書は、この時代の松永の手口が進化を遂げ、後の7人殺害につながる支配の構図に繋がっていると結論付けている。

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小学生時代の松永太死刑囚(小学校卒業アルバムより)

親戚の詐欺師Zに影響を受けた松永

 当時、この事件を取材していた福岡県警担当記者は言う。

「地元で暴力団と繋がりのあることで知られる『××物産』という会社があるのですが、松永はその会社の名前を頻繁に出し、自分が同社の背後にある暴力団と懇意であることを暗に示していました。また、『××物産』の関係者もワールドの事務所に顔を出しています。それから物故者ですが、松永の親戚に、地元で詐欺をやっていることで有名なZさんという男性がいたんです。彼はそれこそオレオレ詐欺や結婚詐欺、さらにはM資金詐欺などのノウハウを持っている人物でした。Zさんは生前、松永の家にやって来ることも多く、松永は詐欺のやり方について、このZさんに多大なる影響を受けています」