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 ここで名前の挙がったZさんについて、元ワールドの従業員だった山形康介さん(仮名)は記憶しているという。2014年に行った取材で、彼は語っていた。

「(福岡県)三潴町に事務所があり、『××新聞』という、夕刊紙くらいの大きさで枚数の少ない業界紙みたいな新聞を出していて、それをワールドに持ってきたことがあります。その人が詐欺をやっていることは耳にしていました。手形を使った金融系の詐欺で、松永は『おじさん』や『Zさん(苗字ではなく名前)』と呼んでいた記憶があります。身長は165センチメートルくらいで、少しやせ型。整った顔立ちで、ジャーナリストっぽくて、小ぎれいにしている印象です。白髪交じりの七三分けで、眼鏡をかけていました。

 Zさんは詐欺のやり方だけでなく、地元のヤクザや権力者の情報も持っていて、松永は情報源と考えていたようです。あとは、こういうカモがいるという話を持ってきていて、その料理法は松永次第という感じでした。行き先は忘れましたが、松永とZさんを車に乗せて、どこかまで連れて行ったこともあります。そのときも車内で親しそうに話をしていました」

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『ワールド』の登記簿より ©小野一光

代表取締役に就任するなど、繰り返された偽装工作

 松永はZさんやその他の知人などからの指南を受け、検察側の論告書にもある通り、〈自身は詐欺的商法に何ら関係していないかのような外形を保〉つため、新たな会社を設立したり、すでにある会社に取締役として入ったりということを繰り返した。

 たとえば先の『株式会社ワールド』にしても、途中で商号を『株式会社ワールド倶楽部』と改称している。

 ほかにも、松永の父がもともとやっていた『パイロングコーポレーション株式会社』という会社は、いったん『パイロングファイナンス株式会社』と商号が変えられ、その後また『パイロングコーポレーション株式会社』に戻されている。ちなみにこの社名は、松永の苗字である松=パイ(ン)と永=ロングを組み合わせたものである。

©️iStock.com

 さらに松永の元同級生で、ワールドの従業員だった坂田昇さん(仮名)を代表取締役にして設立された『株式会社フリージア』という会社もあった。ここなどは、坂田さんが代表取締役を1カ月で辞任。改めて松永が代表取締役に就任するなど、偽装工作が行われていることは明らかだ。ちなみにこの会社の営業項目は以下の通りである。

〈1.家具、家具及び寝装インテリアの販売

 2.信用調査業務

 3.日常食料品の販売

 4.化粧品の販売

 5.食堂、喫茶店の経営

 6.衣料品の販売

 7.各種の興行業

 8.前各号に付帯する一切の業務〉

 このなかに、〈2.信用調査業務〉という営業項目が入っているが、じつは先の『パイロングコーポレーション株式会社』にも同じく〈1.信用調査及び集金代行業務〉という営業項目がある。