1ページ目から読む
3/4ページ目

「妻がワールドを職場として見つけてきた」という中谷弘之さん(仮名)

 ワールド時代の松永のターゲットにされ、生活を奪われたという人物は少なくない。行方を捜せなかったため、直接本人に取材することは叶わなかったが、福岡地裁小倉支部で開かれた公判のなかで、そうした人物の存在が取り上げられている。検察側の論告書をもとに、その状況を振り返る。

布団訪問販売会社『ワールド』の事務所兼自宅ビル(本社ビル)、2002年撮影 ©️小野一光

 1990年の後半、実家が福岡県三潴郡城島町(現:久留米市城島町)で農家を営む中谷弘之さん(仮名)の新しい職場として、ワールドを見つけてきたのは、妻の美咲さん(仮名)だった。ワールドで働き始めた中谷さんは、すぐに同社で暴力の洗礼を受けることになる。論告書には次のようにある(〈 〉内は以下同)。

〈松永自身が暴力を振るうことはまれで、ほとんどは松永が他の従業員に命じて暴力を振るわせていた。

 松永は、中谷に命じて、親戚や知人から、名義貸しの方法で金を借りさせた。中谷は、20~30人から、合計2000万~3000万円を借りたと思うし、自己名義でも1000万円ほどの借金をし、それをすべて松永に渡していた〉

妻・美咲(仮名)さんの家族まで引きずり込まれて

 やがて松永は、中谷さんの妻の美咲さんをもワールドに引き込んでいた。

ADVERTISEMENT

〈松永は、美咲に対し、当時の夫であった中谷の借金は妻の借金でもあるなどと申し向けて、中谷の借金の連帯保証人としての念書を作成させ、以後、この念書を突き付けては、美咲にワールドのために働くように強要した。そればかりか松永は、美咲がワールドに住み込みで働くようになると、同人に対し、食費、生活費、滞在費として更に金が掛かっているなどと申し向けて次々と借用書を作成させ、これらをも用いて美咲にただ働きを継続するよう要求した。その結果、美咲の松永に対する借金は増え続けるばかりであった〉

©️iStock.com

 さらに松永は、美咲さんの妹や父親に対しても、家族の責任だとして念書を書かせ、暴行を加えている。そのうえで、美咲さんの父親が所有していた3カ所の農地を、実際には(松永がでっち上げた)借金との相殺にもかかわらず、1991年9月に松永が購入したとのかたちで、名義変更が行われていた。また、この時点で美咲さん、さらには彼女の妹および父親が巻き上げられた現金は、少なくとも合計1476万円以上になる。