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2021/01/17

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 読書, 社会, 働き方

(考えたくないけど、この体の不調って精神的なモノが原因……?)

 熱に続いて今度はカラ咳が止まらなくなり、とうとう電話の仕事に差しさわりが出るようになってきた。またまた病院に行って血液検査やレントゲンを撮ったりしたけれど、アレルギーでも喘息でもなく、なぜ咳が出るのかこれも原因不明。

「どこもおかしな所はないんだけどねー」

 お医者さんにそう言われる度に、私の心には「心・因・性」という文字が浮かぶ。いいかげん、病院代で給料がガンガン消えていくのもむなしくなっていた。

©榎本まみ

カウンセリングはビジネスライク

「よし、心因性ならカウンセリングを受けてみよう!」

 ある日、そう思い立った私は、ネットで調べて都心にあるカウンセリングルームに行ってみることにした。

 カウンセリングって初めてだけど、どんなことしてくれるのか気になるし、とちょっとわくわくした。そうして出かけた繁華街のビルの一室にあるそのカウンセリングルームは、白いインテリアで統一され、アロマが焚いてあっていい香りに満ちていた。

「どうされました?」

(おおっ、なんかよさそうだ!)

 出迎えてくれたのは、白衣を着た年若い女性のカウンセラーさんだった。私は緊張しつつ、ぽつぽつと、カウンセラーさんに促されるままため込んでいたものを吐き出していった。

「毎日お客さまに怒鳴られるのが辛いんです……」

「大変ですね」

「朝から晩まで会社にいなきゃいけなくて、上司はもう少しの辛抱だっていうんですけど、こんなに大変なのは私の部署だけで……うっ」

「そうなんですか……」

 聞き上手なカウンセラーさんに優しい言葉をかけてもらい、張り詰めていたものが緩んでいく。次第に涙が出てきた。

 こんな初対面の人の前で泣くなんて、カウンセラーさんてやっぱりすごいなぁ、と私は泣きながら感心していた。

 そして、しばらく泣いて、差し出されたティッシュで傍らの小さなゴミ箱がいっぱいになった頃、カウンセラーさんがパタン、と何やらカルテのようなものを閉じて言った。

「では、お時間ですので」

「え!?」

 確かにカウンセリングは時間制、1時間なのですが、私、開始10分位から泣いちゃって悩み事とか全然しゃべってないんですけど……。

「8000円になります」

「は、はい……」

 私はあわてて、泣きはらした目をこすりながらお財布からお金を取り出した。カウンセラーさんはそれを受け取って領収書を渡すと、ぽんっ、と私を外に送りだした。

 外に出されて気がついた。いままで号泣していた私はこれ以上なく目が腫れてものすごい顔をしている。通り過ぎる人がいったい何があったのか、と私の顔をチラチラ見ていく。

(ええ! こ、このまま放置!?)

 私は顔を必死で覆い隠して、駅までダッシュした。

(ビ、ビジネスライク過ぎるだろぉぉぉぉ!)

 なんとこの世は冷たいことよ……。私は大都会に向かって叫んだ。

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