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2021/01/17

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 読書, 社会, 働き方

そして、彼もいなくなった……

『最近忙しい?』

(ま、まずい! メール返信してなかった!)

 コールセンターで朝から晩まで督促をし、家に帰るともう日付が変わっていた。一日中鞄に放り込んでいた携帯電話を見てみると何件もの電話の着信履歴があった。

 社会人になったばかりの頃、私にも一応彼氏なるものがいた。

 最後にメールを返信したのはいつだっけ? と携帯を見ると4日前。コールセンターには携帯電話の持ち込みが禁止されている。カメラ機能が付いているため、個人情報の流出の危険があるからだ。

 携帯電話は鍵のついたロッカーに一日中入れられている。休憩を取る暇もなく電話をしなければならなかった私は、携帯のメールチェックもできなかった。仕事が終わると疲れ果てていて、一日中お客さまと電話でしゃべっているので、仕事が終わってまで電話で話す気になれない。

©iStock.com

『返信できなくてごめん! 今日も朝から晩まで仕事でね……』

 4日ぶりにメールに返信したけど返事は返ってこなかった。申し訳ないけど、それにほっとしてしまう自分がいた。

 メールのやり取りも正直めんどくさいなぁ……。週末会う約束をしているけど、仕事でヘトヘトで本当は寝ていたい。会ったところで仕事の愚痴しか話題はないし……。そのころの私は督促の仕事がいっぱいいっぱいで、自分にも他人にも構っている余裕が全然なくなってしまっていた。

ユニクロパンツから紙パンツ

 毎日家に帰ると倒れるように眠ってしまうので、掃除も洗濯もできずに洗濯物がどんどん溜まっていく。替えの下着がなくなると乗換駅のユニクロでパンツを買って帰った。ユニクロが閉まっているとコンビニに行く。コンビニで売ってるパンツはお世辞にもあんまりかわいくないと思うんだけどこの際しかたがない。

 一日中パソコンに向かう仕事なのでドライアイで目がカピカピになる。私は即コンタクトをやめて高校生の時から家でかけていたダサいフレームの眼鏡を会社にしていくようになった。ファンデーションが切れてもデパートに買いにいく余裕がなくて、そのうちスッピンになった。

 私は確実に女子ではない生物になりつつあった。

 ある日出社すると、先輩が私をまじまじと見てこんなことを言い放った。

「お前さ、最近女として終わってるよな……」

(ひどすぎる!!)

 その一言はグサリと胸に突き刺さったけれど、でも実際そのとおりだった……。

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