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『恋する遊園地』のストーリー

【あらすじ】

 恥ずかしがり屋の女性ジャンヌは、真逆で奔放な性格の母、マーガレットと二人暮らし。大好きな遊園地で夜間清掃員として働くことになったジャンヌは、あるアトラクションに心を奪われるようになる。煌々と輝くライト、美しいメタリックのボディ、熱く流れる油圧のオイル……ジャンヌは自ら彼を「ジャンボ」と名付ける。

 人を愛するように深く「ジャンボ」に魅かれていき、自分を解放していくジャンヌ。「ジャンボ」もそれに呼応し、意思を持つかのように光と音を放つ。しかし、そんなジャンヌを受け入れられず、気味悪く思う周囲の人々は、彼女に冷酷な仕打ちをする。それでも「ジャンボ」への想いを抑えられなくなったジャンヌは、ある行動に出るが……。

「命なきものよ、お前にも魂があり、ぼくらに愛を求めるのか?」

 ヒロイン・ジャンヌ役は、『不実な女と官能詩人』(2019年公開)のノエミ・メルラン。今回はヘアをボブスタイルに変え、心を閉ざしていたジャンヌが、どんどん美しく解放されていく変化を好演している。

©2019 Insolence Productions – Les Films Fauves – Kwassa Films

 自由奔放な母に振り回される人生を歩んできた、人付き合いが苦手なジャンヌ。手先が器用な彼女は、縮小したアトラクションを手作りし、自分の部屋を小さな遊園地のように見事に作り上げ、そこにこもりがちになって暮らしている(この電飾がきらめく美しい部屋も見どころの1つだ)。

 仕事も遊園地の清掃と、明らかに「遊園地マニア」として、孤独に、小さな幸せの中で生きているジャンヌ。男にだらしない母を愛してはいるのだが、彼女とは心も会話もまったく噛み合わない。

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 働き始めて間もなく、ジャンヌが一人夜の遊園地で清掃をしていると、誰かの気配を感じる。しかし、振り向くとアトラクションがそこにあるだけだ。この出来事が気にかかったジャンヌが「物に心があると感じたことはない?」と新任の上司に尋ねると、ある詩の一節を教えてくれる。

「命なきものよ、お前にも魂があり、ぼくらに愛を求めるのか?」

 詩は想像力によって生み出される芸術だ。この誰かの「想像」が、欠けていたパズルのピースに出会ったかのように、ジャンヌの心の中にピタリとはまる。そして言葉に導かれるように、ジャンヌは命なきもの、アトラクションのジャンボに魂を求め、熱心に語りかけるようになる。

©2019 Insolence Productions – Les Films Fauves – Kwassa Films

 やがて問いかけると、ジャンボは光で答えをくれるようになり、会話も成立するようになるのだが……このあたりからは、観客にも現実なのかジャンヌの空想なのか境界がわからなくなっていく。そしてジャンヌ本人は、幸せを掴んだ女性のように、生き生きとした表情を浮かべるように変わっていくのだ。