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「BTS法」は、BTSしか使えない?

「BTS法」については、同法案が「BTSだけのための法案」だという非難が一部ですでに起きている。

 改正された兵役法により、軍入隊を30歳まで延長できる大衆芸術家は、「文化勲章または褒章を受けた受勲者の中で、文化体育観光部長官が国威宣揚に功績があると推薦した者」に限られている。

 ところが実は、韓国では勲章受章者として推薦を受けるためには「該当分野の活動経歴が15年以上」という条件が必要だ。(ちなみに、大衆芸術家には褒章が与えられない)

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 つまり、10代半ばから活動を始めるK-POPアイドルは、15年間の活動を経て勲章をもらえる時点では30歳を超えてしまう。このため、韓国音楽コンテンツ協会は先日声明を発表し、「実質的に誰も恩恵を受けられない法案になってしまう」という不満を公式に示した。

 韓国音楽コンテンツ協会によると、韓国で大衆芸術家が勲章を受ける平均年齢はなんと、67.7歳。過去10年間に入隊可能年齢の20代で文化勲章を受けた歌手はBTSだけだった。BTSは、K-POPを世界的に広めたということで「特別功績」に分類され、15年以上の活動という条件を満たさず、例外的に2018年10月に花冠文化勲章を受けた。

 韓国音楽コンテンツ協会は「同法案が単にBTSの兵役問題だけでなく、K-POP産業の振興のための政府の思い切った決定にするためには再考が必要だ」という趣旨の声明文を発表した。

BTS、映画「パラサイト」は政府の努力の成果?

 つい最近BTSにハマって、遅れて「ARMY」(BTSファン)となった知人女性は、BTS法案に対して次のような不満をぶつけている。

「正直、ARMYたちはあまり嬉しくありません。BTSはずっと前から他の人たちと同じく兵役の義務を果たすと言ってきたのに、勝手にBTSを利用している政治家たちの下心が見え見えです。兵役という最も敏感な問題を扱う法律にBTSを持ち込むのは本当に迷惑。すでにインターネットでは、アンチBTSの人々が大騒ぎしています」

 ネーミング法案は韓国の政治家のいわゆる「芸能人マーケティング」の一環だ。芸能人の人気に便乗すれば、大衆に自分の名前を知らしめ、特に若者層にアピールできるという点で、与野党を問わず、韓国の政治家にとっては絶好の宣伝法だ。

BTSのメンバーと抱き合う文在寅大統領(2018年10月) ©️AFLO

 文在寅大統領も、1月11日の新年の辞で、BTSやBLACKPINK、映画の「パラサイト」などを列挙し、韓流コンテンツの世界的な成功がまるで韓国政府の努力の成果であるように語った。

 政治的対立が続く韓国社会では、K-POPアイドルたちにさえ「左派」「右派」というレッテルを貼り、味方か敵かを問う雰囲気が強まっている。朴槿恵(パク・クネ)政権が、自らの政権に批判的な芸能人の「ブラックリスト」を作成していた件が代表的だ。

 K-POPが全世界の若者に伝えている「和解」のメッセージを、最も近くで邪魔しているのは、政治家たちのこのような「芸能人マーケティング」ではないだろうか。