文春オンライン

「進んでいく方向は決まっているので、自分では何もできない」 直木賞作家が語る“小説の終わり”

source : 本の話

genre : エンタメ, 読書

note

 2021年1月20日、第164回芥川龍之介賞の選考会が開かれ、西條奈加さん(56)の『心淋し川』(集英社)が選ばれました。いずれも初の直木賞ノミネートとして話題となった今回の選考ですが、直木賞を受賞すると、受賞者の生活にはどのような変化があるのでしょうか。

『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』で第161回直木賞を受賞した大島真寿美さんと、『熱源』で第162回直木賞を受賞した川越宗一さんが、日常の執筆スタイルや創作方法、直木賞決定後の悲喜こもごもなどを語り合いました。(全2回目の1回目。後編を読む)

(初出:「本の話」2020.01.28)

ADVERTISEMENT

『熱源』の直木賞決定からちょうど1週間後に東京で対談が実現(写真:深野未季)

◆◆◆

デビューの日を巡る二人の偶然

大島 この度はおめでとうございます。毎日、取材で大変じゃないですか?

川越 ありがとうございます。いまは自分の時間というのはほとんどありませんが、折角の機会なので、走り抜けたいと思います。

大島 川越さんとは不思議な縁があるんですよね。忘れもしない2018年4月25日のこと。その日は、担当の編集者さんと、『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』の取材のために豊竹呂太夫師匠の義太夫講座へ体験入学する予定でした。そうしたら担当さんが、「すいません、松本清張賞の選考会と重なっていけなくなりました」って連絡がきたのね。「応援している方が最終候補に残っているので、どうしても選考会を外せなくって」というので、私は友達と義太夫講座に行ったわけです。で、その「応援している方」というのが、川越さんだったんですよ。だから、私が義太夫にデビューした日と、川越さんの作家デビューは一緒の日なの。川越さんはこの2年で直木賞をおとりになったことに比べ、私の義太夫の進歩しないこと(笑)。そんなご縁もあって応援していたんですよ。

川越 そう言っていただいて、本当に有難うございます。初めてお目にかかったのは、昨年末の『ツタよ、ツタ』(小学館文庫)刊行を記念した名古屋の書店さんでのトークショーで、そこで伺った大島さんのお話が大変印象的でした。小説を書くとき、大島さんは登場人物に潜っていく方だと思ったんです。スキューバダイビングのように、人の心に深く深く潜っていって、いちど視界が暗くなっても、最後にはサンゴ礁のようなきれいな世界が広がっている。そんな人物への掘り下げをする方だと思いました。

 僕は、外面的というか世界の状況から人物を掘っていくような書き方をいまはしているので、「俺もキャラクターに潜れなアカンな」と思ったんです。