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呼吸にも気を遣わなければ……

 午前9時15分、2人は中央制御室に戻った。

 大友は戻るなり、非常用の保存水をガッと飲んだかと思うと、それを床にペッと吐き出した。見るからに苦しそうだった。

 もっとも伊沢は、2人が思ったより早く戻ってきたので意を強くした。

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 午前9時24分頃、第2班が建屋に入った。圧力抑制室まで行かなければならない。

 応援のE班当直長、遠藤英由とC班当直長のコンビである。遠藤は、自ら手を挙げて志願したのだった。彼らが向かったのは格納容器下部の圧力抑制室の上にあるベント弁小弁である。先頭の遠藤が1000ミリシーベルトまで測れる線量計を首から下げた。

※写真はイメージです ©iStock.com

 酸素の消費量を減らさないようにしなければならない。

〈呼吸にも気を遣わなければ〉

 頭ではそう考えて出かけたが、1号機建屋に入る頃には小走りになっていた。

福島第一原発で最初に「100ミリシーベルト」を超えた所員

「ヨシ!」

 二重扉の前に立った時、気合を入れた。扉の向こうがどういう状況になっているのか皆目見当がつかない。懐中電灯頼りにトーラス室途中まで行き、キャットウォークへ続く階段のところで線量計を見ると、毎時90~100ミリシーベルトの間を行ったり来たりしていた。トーラス室とは、圧力抑制室を収納するトーラス形状の部屋、キャットウォークとはトーラス室上部の点検通路である。そこから圧力抑制室を回り込む形で30メートルほど進まなければならない。しかし、線量計の針は毎時100ミリシーベルトを超え、振り切れていた。80ミリシーベルトにセットされているAPDの警報が鳴った。もはや戻るしかない。

 第2班は、中央制御室に引き返した。この時遠藤とC班当直長が浴びた線量は、それぞれ89ミリシーベルトと95ミリシーベルトだった。伊沢は、2人をただちに免震重要棟に退避させた。彼らはその後、緊急時対策室で仕事をしたが、2人とも福島第一原発で最初に「100ミリシーベルト」を超えた所員となった。