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身の毛がよだつ思い

「あれはチェルノブイリ型の爆発ですか。チェルノブイリと同じことが起こったのですか」

 班目は直接、福山の質問には答えず、やっとのことで言葉を絞り出した。

「私が申し上げたのはあくまで格納容器の話であります」

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 水素爆発の可能性は格納容器について述べたのであって、建屋の水素爆発は想像だにしなかったと言おうとしたのである。

 菅は秘書官に強い口調で命じた。

「あんな爆発だったら、現地の人間はすぐに分かるはずだろう。なぜ報告が上がってこないんだ。早く情報を上げてくれ!」

 班目同様、武黒もまともに答えられなかった。

 後に、武黒は、「タービン発電機の冷却用の水素なのか……などとりとめもない考えが浮かぶだけで、身の毛がよだつ思いがした」と告白している。

 菅は、この後、隣の首相応接室へのドアを開け、そこにいた海江田たちに大声で叫んだ。

「1号機が爆発した。どうなっているのだ!」

 海江田たちは、そのとき、海水注入の話をしており、テレビをつけていなかった。

 玄葉光一郎国家戦略担当・内閣府特命担当相は、そのときたまたま地下1階の危機管理センター中2階の小部屋にいた。

©iStock.com

 部屋のテレビに爆発シーンが映っている。その場に居合わせた東電リエゾンに質したが、分からない。電話で本店に連絡したが、分からない。窮した揚げ句、彼は答えた。

「地震で粉塵の類が建屋に積もっており、大きな余震でそれが舞い上がったのではないでしょうか」

 政府が手にした唯一の情報は、日本テレビが放映した爆発映像だけだった。

 この映像は、同テレビ系列の福島中央テレビ(FCT)が撮った映像だった。

 福島中央テレビはJCO臨界事故後、福島第一原発から17キロメートル離れた富岡町の山中にSDカメラを設置した。それ以後、一日も一秒も休むことなく福島第一と第二原発を撮り続けて来た。

 そのカメラが、その瞬間をとらえたのである。この間、映像はBBCのネットをはじめインターネットのサイトにアップされ、爆発そのものの映像はまたたくまに広まった。

「原発が爆発していないことを国として国民に説明してほしい」

 しかし、その映像は何を意味しているのか?

 日本テレビは、最初の映像放映の後、スタジオに有冨正憲東京工業大学原子炉工学研究所所長(原子力安全委員会専門委員)を招き、解説させた。

 アナウンサー「いま、映像が流れましたけれども、何か爆発のような……、煙のようなものが……」

 有冨「爆破弁を使って……先ほどの絵では、水蒸気が出てきましたね」

 アナウンサー「これは爆破弁というものを使って、意図的に出したものですね」

 有冨「はい、意図的なものだと思います」

 原子炉が爆発したのか。それとも、別の何かが爆発したのか。ポイントはその点に尽きた。

 唯一の情報は、テレビに映った爆発の映像だった。その映像から見る限り、「原子炉建屋の上がない」。東電はそれ以外、何一つ確かな情報を保安院にも官邸にも報告して来ない。

 何が起こったかは知らせない。ただ、何が起こらなかったかは熱心に伝えようとした。

「17:34 原発が爆発していないことを国として国民に説明してほしいと東京電力から要請あり」

 保安院の「内部メモ」(2011年3月12日午後5時34分)にはそう書かれている。