槇原敬之くんのコンサートで、終演後に楽屋に行くと「木﨑さん来てるのわかったからさ、すごい歌い方気にして歌ったんだ」と言われたことがあります。僕はそのとき、ちょうどプロデュースしていた若いアーティストに丸く歌って欲しいなと思っていたので、その視点から歌を聴いていたんです。やはり槇原くんの歌い回しとか言葉の伝え方とか素晴らしいなと思っていたところでした。
それを知るはずのない槇原くんが、「丸く歌え、丸く歌えって木﨑さんにさんざん言われたからね」って言うんですね。僕、丸く歌うってことを言い出したのは最近だと思っていたから、ちょっと驚きました。槇原くんにも言っていたのか、と。僕が歌い方で気にしていることは、昔からあまり変わっていなかったんだと気づきました。
ただ、あとは本当にアーティストの自由。必要なときはもちろん手を貸しますけど、その人じゃなきゃ出てこないオリジナルの発想というのは、やっぱり自由な環境あってこそだと思います。
難しいという事実を伝えない
トライセラトップスのギター/ボーカルの和田唱(しょう)くんとは、彼が高校生のときに出会いました。僕は唱くんの声にすごく惹かれたんです。ギターも当時からかなり高度なテクニックをこなしていましたが、「サイドボーカルになりたい」とか、「ギターをもうひとり入れたい」とか言っていました。でもしっくりくる人がいなかったので、「唱くんがギターリフを弾きながら歌ったほうがいいんじゃない」と言いました。
実はそれ、すごく難しいことなんです。唱くんも「歌いながらじゃ弾けないリフがあるんです」と言っていましたが、それを無視して僕は黙って聞いていました。内心では、もしあんな複雑なリフを弾きながら歌えたらすごい、と思っていたんですけれど。そうしたら、彼はそのリフを弾きながら歌うことができるようになったんです。
人間の能力は量りしれないけど、周りが「さすがにそれは難しいね」などと言うことでリミッターがかかることがあるんです。だからレコーディングのやり方なんかも教えない方がいいんですよね。歌の録り方でもなんでも。そうすれば、自分でおもしろい方法を見つけることもあって、オリジナリティが生まれます。