坪内さんも「何度かいらしたことがあるかもしれない」…隠れた人気店
コロナ禍で非常事態宣言が発令中の殺伐とした2021年1月半ば、久しぶりに「峠そば」を訪れてみた。虎ノ門界隈のオフィス街は軒並みテレワークで、人が歩いていない。そんな時期に訪れて、少しでもお店を応援しようというわけである。
若旦那は元気そうでなによりで、笑顔で歓迎してくれた。若旦那は昨年結婚されて、お店は奥さんとともに切り盛りしている。
しかし、商売的には相当厳しい状況のようだ。2021年になって売り上げは通常の半分以下に落ち込んでいるという。食い繋いでいくのも必死だ。「峠そば」をはじめ個人経営の立ち食いそば屋は一般的に酒も提供していないし、早く閉店するところがほとんどである。去年は時短の補助金はもらえなかったそうで、今回はどうなるのか気をもんでいるところだという。
若旦那が「何でも揚げますよ」というので、本日の天ぷら「葱と生姜のかき揚げそば」を注文してみることにした。完成までの間に、若旦那に幾つか質問してみた。
坪内さんのお気に入りだった「峠そば」の前身の「スタンドそば」は系列の店か尋ねると、それとは全く違った独立店(坪内さんのいうインディペンデントな店)だったそうである。
そして、坪内さんの写真をみてもらうと、「写真のようなフォーマルではない服装で、何度かいらしたことがあるかもしれない」という。坪内さんは自らの記憶を埋めるように訪問していたのだろう。「峠そば」には近隣の新聞社のお偉いさんや作家の方もよく訪れている。隠れた人気店なのである。平松洋子さん(個人的には「ひらまよさん」とお呼びしています)も「峠そば」はお気に入りの店となっているようだ。
化学調味料などを使わないコクのあるつゆが有名
生そばの茹で上がりと同時にかき揚げがちょうど出来上がった。そのアツアツの葱と生姜のかき揚げがのって登場した。そういえば、こちらで温かいそばを食べるのは3年ぶりだ。出汁のしっかり利いたちょうど良い返しのつゆが沁みわたる。「峠そば」は化学調味料などを使わないコクのあるつゆが有名である。天ぷらもカリッとして、生姜の辛さが口いっぱいに広がる。ほんのりごま油が香る上品な味である。生そばはコシがあってなかなかよい。