立ち食い・大衆系そば屋にはあって、老舗・町そば・手打ち系そば屋ではほとんど御目にかかれないそばの具材がある。「コロッケ」と「春菊天」である。今回の話題は「春菊天そば」。
春菊といえば、「すき焼き」などに入っている青物という位しか想像できないという方も多いと思う。関西で明治以降に誕生したといわれる「すき焼き」では、ねぎや春菊(関西では菊菜といわれている)を薬味として使っていたようだ。関東大震災後、関東でも「すき焼き」が「牛鍋」と融合して広まっていったという。
当時の牛肉は匂いが強く、ちょうどハーブやパクチーのように香りの強い薬味でそれを打ち消そうと考えて春菊が選ばれたのだと思う。すき焼きの季節は晩秋から冬なので、ちょうどその頃、旬を迎える春菊はうってつけだったというわけである。パクチーやねぎが好きでたまらないという人はたまにいるが、春菊も十分な和製ハーブといってよいと思う。
しかし、話を現在の時に移すと、春菊には不思議なことが多いのだ。関西の立ち食いそば屋では春菊天はあまりみかけないが、関東の立ち食いそば屋では、春菊天がダントツの一番人気という店もある。春菊には何か秘密がありそうだ。
なぜ、関東の立ち食いそば屋では春菊天が人気なのか
なぜ、関東の立ち食いそば屋では春菊天が人気なのだろうか。関西と関東の春菊は種類が異なっている。関西の春菊は菊菜という。菊菜は株ごと抜いて収穫する。葉は大きく香りは控えめで、サラダなど生で食べるのに向いているという。関東の春菊は葉が小さめで香りが菊菜より強い。茎が何本かに分かれるので、茎を摘み取りながら長期間収穫できる。
つまり、天ぷらにしたとき、香りがよく立つのは関東の春菊ということになる。天ぷらにすると苦みが抜け、さわやかな香りを放つのが特徴で、醤油の濃い目のつゆにもよく合っている。このあたりが関東での人気の理由だと考えている。
春菊天は大きくわけて4つのタイプがある
「春菊天」には大きく分けて4つのタイプがある。1つは春菊を大きな手のひらのように葉っぱを広げたまま揚げるタイプ。この「手のひらタイプ」は見栄えがなかなかよい。
もう1つは春菊を細かく切ってカリっとしたかき揚げにするタイプである。この「カリっとタイプ」は香り重視型である。
もう1つは同じかき揚げだが、しっとりソフトなタイプである。「ソフトタイプ」は衣が多めで、アツアツのつゆにひたすとほぐれていき、天ぷらの華が開くように春菊天が香っていく。往年の関東の立ち食いそば屋の味である。
そして、最後の1つはかき揚げ混合型。「混合型」はどちらかというと「野菜かき揚げ」なのだが、春菊の緑が彩りを添えるタイプである。中にはユニークなものもある。