春菊天そばをさらに楽しむ上級者たちの頼み方
さて、春菊天の紹介で食欲中枢が刺激されてきたところで、最後に、春菊天そばをさらに楽しむ上級者たちの頼み方を少しだけ紹介しよう。
須田町や中延駅近くなどにある「六文そば」では、一番人気の「げそ天」と「春菊天」を同時に載せて頼む達人も多い。げその旨い香りと春菊の香りの出会う世界である。コリコリのげその食感と春菊天のサクサク感がたまらない。
また、立ち食い・大衆そば屋を代表する具材、「コロッケ」と「春菊天」を同時に載せて「コロシュンそば」を食べるというのも面白い。たまにチャレンジするメニューである。
東神田の「そば千」では、「青菜(小松菜)」と「春菊天」をのせた「青春そば」というメニューを頼むことができる。自分のようなおっさんが大声で頼むには少しだけ恥ずかしいが、これも魅力的なメニューである。
以上、春菊天の奥深い世界を少しだけ紹介した。
春菊を天ぷらにすることで苦みが抜け、さわやかな香りを放つようになり、万人に食べやすい人気の具材となったわけである。そしてそば料理人達の創意工夫で、多種の春菊天が登場して、人気を競っているわけである。
読者の皆様も是非、自分好みの春菊天をみつけてもらいたいものである。
さて、文春オンラインの立ち食い・大衆そばの記事も2017年1月にスタートして以来、今回で100連載目を迎えることになった。読者の諸兄諸姉の皆様には改めて感謝いたします。
自分のような情けない人生を送ってしまった人間にとって、知らない街にひっそり佇む立ち食い・大衆そば屋があることは、そんな人生に一灯の喜びを与えてくれる存在である。
それが昨今のコロナ禍によって、訪問することもままならないばかりか、知らない間に店が跡形もなく消え去ったりと、あり得ない状況が続いているわけである。
立ち食いそば屋が駅の「待合いそば」として誕生してからちょうど110年になる。
震災や戦争を経て、さらに1964年の東京オリンピックの頃から怒涛のように街に立ち食いそば屋が軒を並べるようになった。そんな長い歴史の中で、戦時下で休業を余儀なくされた時を除き、コロナ禍のような激烈に厳しい商売環境はなかったといってもよい。取材に行くのにもなかなか辛い日々が続いている。
どうにかしてはやく下火になることを祈るばかりである。どうか、読者の皆様も密にならないように、留意して立ち食い・大衆そばを楽しんでもらえればと祈るばかりである。
写真=坂崎仁紀