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「スーッと来た球をガーンと打つ」だけではない…意外と“論理的”だった長嶋茂雄の打撃術

『燃えた、打った、走った!』より #2

2021/02/20

 ストレート6、カーブ3、シュート1の割合で投げてもらい、100本中20本ぐらいスタンドに入れた。

 この練習のあと、

「なにか気がついたことなかった?」

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 ときくと、宮田は苦笑して、

「ええ。なんとか外野フライぐらいに止めたくって、息の仕方をみてたんだけど、チョーさんは肺があるんですか、読みにくくってどうしようもないですよ」

呼吸法に向けていた意識

 お世辞かもしれないから、宮田説は幾分かは割り引く必要があるだろうが、ぼくは現役時代、この呼吸法に注意していたのは事実だ。

 緊張してなにかを見つめるさい、よく「息を殺す」という表現を使う。タマを迎える場合は息を殺すより、息をしだいに止めて待つ状態がいいようだ。まったく息をストップしてしまうと、体全体が硬直してしまい、いざバットを振りだすというときに、その息が抜けてしまう。かんじんのミートのさい、最大の爆発力が生みだせないわけだ。

 呼吸というのは、下のほうへさがっていくのがほんとうで、ヘソのあたりからしだいに気持ちが沈んでいくような感じがつかめたらOKだ。

 ボックスで構えているときは、相手のピッチャーのリズムに合わせて、ダンスにたとえるなら、フォックス・トロット、例の「スロー、スロー、クイック」でボールとのタイミングをはかる。

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 バッティングでいう“間(ま)”というのが、二つ目の「スロー」で、しだいに息をとめて待つのもこの「スロー」のときだ。この感じを自分のものにしてしまうと、プレートの近くで変化するいろいろな種類のタマを見分けられるようになってくる。

ぼくのグリップ

 ぼくは打つ寸前に、よくじわじわとバットを半回転させてからスイングする。

 バットには中ほどのところに楕円形の焼き印が押してあり、このマークの部分で打つと、ポッキリ折れる。

 ぼくの場合は、そのマークにまったくお構いなしに半回転させて打っていたのだが、不思議とマークとボールとが正面衝突したことはなかった。

 おそらく、ボールのシンをとらえるときの自分の気持ちを、ああやって無意識のうちに準備していたのだろうが、あれだけはわれながら不思議だった。意識してやっていたのなら、とてもああはできない。

 バットのにぎりも重要なポイントだ。