髙村 あれって、お得なのでしょう? みなさんパッと群がり、マスクをして観光地に出かける。とても滑稽ですよ。なぜ、マスクをして観光しなければならないんだろうかと。せっかく旅先でおいしいご飯が出てきても、お喋り一つできない。黙ってご飯を食べる。とってもおかしいですよ。Go Toの捉え方一つでも、一歩引いて見ることができるはずなのに、そうではないんだなあと、私は眺めていますね。
岡村 2021年に開催されるであろうオリンピックについてはどう思われていますか?
髙村 おそらくいまの政権は、何が何でもやる、無観客でもやるだろうと思います。でもそれでは本来のオリンピックではないし、岡村さんの地元も盛り上がらない、そして、国民全体も盛り上がらない、本当に残念な大会になるだろうなと思います。だから、私もこのコロナで、これをどういうふうに新しい価値観や新しい生き方に結びつけていけるのか、わからないところがいっぱいあるんです。
岡村さんなんかきっと、通常のようなライブパフォーマンスがいまできない状態だと思いますけれど、例えばこれをネット配信で披露するとなると、やっぱり違いがありますでしょう?
岡村 まったく違います。
髙村 そうでしょう。音楽のパフォーマンス一つとっても、あるいは野球やスポーツ一つとっても、こういった感染症の中で、人を集められない中で、どんな形があり得るのか、私は全然わからないんです。何か私たちが想像もしなかったようなすごく新しい形の何かが出てくるのかなあとも思ったり。わずかな期待もあるんですけれど。
実は2年前から鬱を患っているんです
岡村 コロナで世の中が萎縮していることとの因果関係はわかりませんが、最近、心を病む人が増えているのかなって思うときがあります。人生を儚む人も出てきている現実、髙村さんはこの世相をどう思われていますか?
髙村 実は私、もう2年ぐらい鬱なんです。鬱はいつどこから入ってくるものかわかりませんし、自分で選び取るものでもない。でも、ある日気がつく。「ああ、これ、たぶんそうだな」って。
岡村 そうでしたか。
髙村 私の場合、原因がはっきりしているんです。四半世紀一緒だった仕事上のパートナーが亡くなりましてね、突然病気で。ブックデザイナーの多田和博さん(18年没)。多田さんはずっと私の本を作ってくださって、二人三脚だった方なんです。
傍から見れば、仕事上のパートナーが亡くなったというだけのことかもしれません。でも、私の中では、ある日どうしようもない穴があいてしまった。他人にはわからないけれど、私の中ではそれがわかる。
ですから、いま、死にたいと思っておられる方に「どうして?」って聞いても他人にはわからない。その人の中で、とにかく穴があいてしまうし、穴があいてしまうと、どうにもこうにも埋められない。そっとしておくことしかできないんです。まさに日にち薬で、1年、2年とそっとしておく。そっと、そっと、生きていく。
やっぱり、自殺してしまう方というのは、真面目で、一生懸命頑張ろうとする人です。その穴から出ようとして。自分が鬱だなと思ったら、いろんなこと放り出して、ぼんやりすることだと思っています。
岡村 もどかしくはあるけれど、解決するのは時間しかない、と。
髙村 実は私、鬱になるのはこれで2度目なので、それがよくわかるんです。最初の鬱は、母を亡くしたときでした。あんなに大っ嫌いな母だったのに、亡くなったらやっぱり、自分の中にものすごく大きな穴があいた。ちょうど阪神淡路大震災と重なったんです。
岡村 1995年、ですね。
髙村 そうです。震災と母の死が重なって鬱になった。だから、よくわかるんですが、とにかく頑張らないことだと思いますね。
※最新話は発売中の「週刊文春WOMAN 2021年 春号」にて掲載。
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text:Izumi Karashima
たかむらかおる/1953年大阪府生まれ。国際基督教大学卒。89年、大阪の外資系商社在職中に書いた初めての小説が、日本推理サスペンス大賞最終候補に。翌90年『黄金を抱いて翔べ』で大賞を受賞し、デビュー。93年『マークスの山』で直木賞受賞。近年は純文学に活躍の場を広げる。
おかむらやすゆき/1965年兵庫県生まれ。音楽家。86年デビュー。「岡村靖幸 2021 SPRINGツアー操」が3月21日よりスタート。NHK「みんなのうた」で、いまの時代を生きる子供達のために書き下ろした新曲「ぐーぐーちょきちょき」が、2年2ヶ月ぶりのシングルとして発売に。