今回のゲストは作家の髙村薫さん。『マークスの山』や『レディ・ジョーカー』など髙村さんが生み出してきた社会派ミステリーに魅せられてきたという岡村ちゃん。大ファンなだけに膨大な資料を読み込み、少々緊張した面持ちでインタビューに挑みました。はてさてどんな話を聞き出せるでしょうか。『週刊文春WOMAN』創刊2周年号未収録のトークも含めた完全版でお送りします。(全2回の2回め/前編を読む)
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「行けた」自分を発見したときに、1歩抜け出した気がした
岡村 髙村さんの場合、具体的な症状というのはどういう?
髙村 とにかく何もやりたくない。やりたい気持ちが起こらない。いろんなことに興味がなくなる。つまらない。動きたくない。出かけるのも嫌。そういう状態です。今回、少し軽くて済んでいるのは、何かを頑張っているからではなく、体を動かしてるからだと思います。
岡村 どんなことを?
髙村 私は馬です。乗馬。何も考えないで馬に乗るだけ。そうすれば何も考えずに済むんです。何も解決しませんけどね。
岡村 最初の鬱からはどうやって回復されたんですか?
髙村 5年6年経って、書く小説がまったく変わったときでした。つまり、それまでずっとミステリーを書いてましたでしょ。それが全然違うところへ行って、「行けた」自分を発見したときに、1歩抜け出した気がしたんです。
岡村 それは、『晴子情歌』を書かれたときでしょうか?
髙村 そうです。それで純文学へ行ったんです。
岡村 ちなみに、ミステリーはもう書かれないんでしょうか?
髙村 ミステリーは若い書き手さんがどんどん育っています。私なんかよりよっぽど上手にお書きになるので、わざわざ私が古びた頭で書く必要もない。どんどん若い方にそのステージを譲っていけばいいと思うんです。
で、私は、若い人たちが絶対に書けないものを書き、周囲の方や読者の方が想像していなかったような世界へ行く。そういうことを自分に課しているというか、それが自分にとって、書くということに興味を失わないためのやり方なんです。
岡村 そのお気持ちはわかります。僕なりにですが。
髙村 30年もやってたら飽きてきますでしょう(笑)。でも飽きないのは、絶対に人が真似できないことをやる、と自分で勝手にハードル設けているからなんですね。
私の人生は「なぜ」でできています
岡村 髙村さんは、社会の歪んだ構造に切り込んだり、人間の闇や業を深く考察されて小説を書かれていますけれど、もともとそういうことに興味があったんですか?
髙村 興味というより、物心ついたときから「なぜこうなんだ」と。
岡村 疑問ですか?
髙村 疑問です。「なんで世の中には貧しい人がいるんだ」。大阪には西成というところがありまして、通天閣ってご存知ですか。
岡村 はい、もちろん。