学生時代はロックをとびっきりいい音で聴いていた
岡村 結婚して家庭を持つみたいなことを考えたこともないですか。
髙村 私は、別に「一生独身で通す」なんて決意をしてたわけでもなく、単にご縁がなかっただけだと思います。目がどこについてるんだってよく男性の方に言われました。「あんたの目はどこ向いて、どこ見てるんだ」って。いや、本当、そうなんだろうなと。つまり男性を見てないんですね。その存在に目が行かない(笑)。
岡村 例えば、映画スターだったり、アイドルだったり、作家の方でもいいですが、恋い焦がれる存在みたいな人はいませんでした?
髙村 私、音楽が好きなんです。ロック。FENというラジオ放送がありましたでしょ(注:駐留米軍によるラジオ局。現AFN)。あれを学生時代はよく聴いてたんで、ずっとロック。もちろんクラシックも聴きますが、ロックが好き。ただ、ラジオですから、姿がない。いまみたいにミュージックビデオもない時代でしたから、私が慣れ親しんだロックやポップスには顔がなかった。だから、このミュージシャンがカッコいいとか、このパフォーマンスがいいとか、そういったビジュアルが私の中にはまったくない。音だけの世界。
岡村 ビートルズは?
髙村 好きでした。でも、それもラジオ。彼らが来日して武道館でコンサートをやったときだけはテレビを観ました。うちの親が珍しく「観ていいよ」と。親も観たかったんだと思います。普段テレビを観せてくれない親だったのに。
岡村 じゃあ、ロックを聴くのも制限されてる感じでしたか?
髙村 ビートルズを観ていいという親でしたから、そこは禁止ではありませんでした。それより「いい音で聴きなさい」と。だって、家には大きなJBL(音楽用スピーカー)がありましたからね。
岡村 へぇー!!
髙村 だから、レコードはたくさん持っていましたし、ロックもとびっきりいい音で聴いてました。でも、いかんせん顔を知らない。
岡村 耳で聴いて当時お好きだった音楽ってほかにはどういう?
髙村 ジミ・ヘンドリックスですね。あとクリームとか。
岡村 60年代ロック。髙村さんはロック少女だったんですね。その、JBLはいまも家に?
髙村 更新しながらいまもあります。当時のレコードもあるので、たまに聴きますし、人が来たら、JBLで聴かせてくれと。
岡村 ほ~! しかし、僕もそうでしたが、昔はすぐに情報が得られなかったので、こうじゃないか、ああじゃないかと想像しながら聴くというのは、結果としてクリエイティビティを上げていたように思うんです。思考が毛細血管のように伸び、不思議なイマジネーションを広げていく。だから、顔のない音を聴いていたというのは、髙村さんの小説家としての力を育んでいたのかもしれませんよね。