映画『痛くない死に方』は長尾先生の体験そのもの
――映画は原作のエピソードそのものですね。
長尾 そうなんです。作品にぼくの経験をたっぷり盛り込んでいただいて。『痛い在宅医』を踏襲しながら、もう1冊の著書『痛くない死に方』も織り込んで。この映画『痛くない死に方』は、ぼくが医者として37年やってきて、いろんな失敗もしたりした、その全てが詰まった作品になっていると思います。
――先生の体験を、映画では何人かの登場人物に振り分けていましたよね。
長尾 そう、すごい脚本です。ぼくはこの原作本以外にも、たくさん本を書いているんですけど、その内容も見事に伴明監督の脚本にちりばめられていた。ぼくが何のために医者をやって、こういう本をいっぱい書いてきたのかということが、この映画に集約されていると思います。完成した映画を観て非常に感動しました。ぼくの言葉や患者さんとの会話を、柄本佑さんや奥田瑛二さんという役者が、セリフとして言ってくれている。
それから、劇中で登場人物が詠む川柳という形でも、在宅医療のエッセンスを表現してくださった。映画は、この川柳が素敵なアクセントとなってすごく効いてる。高橋伴明監督の脚本、本当に素晴らしいです。
世の中のほとんど、9割方の人が「在宅医療」「平穏死・尊厳死」というものを知らない。実は医者でも、8割方が理解してないのが現実です。だから映画がそういったことを知るきっかけになったり、死について家族と話し合うきっかけになったらありがたいです。
死について考えるのは、むしろ前向きに生きるということ
――やっぱり「在宅医療」や「平穏死」については、早くから家族と話し合っておくことが大事なんでしょうか。
長尾 大事だと思います。でも日本人は、死について話し合いたくない人が多い。ただ、今回の新型コロナで、誰もがものすごく死を意識するようになりましたよね。コロナがどうして怖いかっていうと、死にたくないからでしょう? 今まで死を意識しなかった方も、コロナで意識するように変わった。
「死を考える」ことは決して悪いことじゃなくて「前向きに生きる」ということなんです。「死とは何か」を考えるということは「生とは何か」を考えるということ。自分自身の死に方・生き方、さらに親の介護、という問題もある。ぼくは認知症の患者さんもたくさん診ているんだけど、映画の中で全てを持ち込むことはできないんで、今回は末期がん患者の場合を取り上げてもらった。そして「在宅医療」「平穏死・尊厳死」というものに焦点を当てた作品になっています。
普通、映画には恰好いい医者が出てきますよね。エリートな雰囲気のね。ところが、この作品では、柄本佑さんが演じる、はじめはいいのか悪いのかわからないような医者が主役でして。リアリティがありますよね。そしてその医師は家庭崩壊して離婚する。
実はぼくの私生活もとても人様に言えるもんじゃない(笑)。……でも、ぼくが監督になにか話したのかな? それで冒頭からああいう、深夜にかかってくる電話のことで、夫婦が揉めるシーンを入れられてしまったのかなあ。でもまあ、あんな感じです、まさに。在宅医もその家族も大変なんですよ。生身の人間ですからね。