白衣を着ない在宅医
長尾 ぼくはね、普段白衣を着てないんです。もう15年以上かな。テレビとか出るときはコスプレみたいに着ますけれども。ぼくは診察室でも在宅を回るときでも、白衣を着ないんですよ。
――患者さんが「先生がうちにちょっと寄ってくれた」と思える雰囲気も大切なんですね。
長尾 そうなんです。ぼくが医者になって3年目かな、ある病院に外来のアルバイトに行ったら、ランニングシャツにステテコのオッサンが出てきた。「だれ? 掃除のおじさん?」と思ったら、なんと院長先生だった。そんな超ラフな姿なのに、患者も普通の顔して診察を受けてた。そのときは、すごく奇異に感じました。ぼくが27か28の頃です。
――その頃の長尾先生は白衣を着てらした?
長尾 はい、もちろん。だけど気がついたら自分がね、今、62歳なんですけど。そういうステテコのおじさんみたいに、だんだんなってきてる。ああ、恐ろしや。うちは20代の医者もいますけど、きっと彼らは「長尾のオッサンは、白衣も着ないで! アホちゃうか?」と思ってるでしょうね。けったいな町医者なんです、ほんまに。
だけど白衣って権威の象徴で、上から目線だし、怖いっていう人も多い。映画でも、柄本佑さん演じる医者は、最初は白衣を着てるんだけど、途中で脱いで私服で診療に行くようになるという演出がされてます。ぼくは家でも外来診察でも、こういう地味な私服でやってます。
深夜、地元のスナックで飲んでいる時に電話が鳴って、そのまま駆けつけることもある……まあ、普段はお酒は飲みませんけどね。呼ばれたら車を運転しなくちゃならないから。でも油断してお酒が入っているときは電車やタクシーを使うしかない。おかげでまだアル中にはならなくてすんでいます。
――普段お酒を飲まないのでしたら、ストレスを発散するとか、逃げどころというのは、何かあるんですか?
長尾 『けったいな町医者』でも撮られてしまいましたが、逃げどころは下手な歌を歌うことです。だんだん他の趣味はなくなってきました。この1年(2020年中)、コロナの影響でイベントはできませんでしたが、少し自分の時間が作れて、本を読んだりもできました。コロナ診療は超ストレスフルですがね。