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在宅医療のスペシャリスト・長尾和宏医師が語る“平穏死”「死について考えるのは、前向きに生きるということ」

映画『痛くない死に方』#2

2021/02/09
note

密着されたドキュメンタリー映画『けったいな町医者』

©️「けったいな町医者」製作委員会

――ドキュメンタリー映画『けったいな町医者』も『痛くない死に方』とほぼ同じ時期に全国で上映されることになりました。

長尾 ドキュメンタリーを撮るのはもちろんぼくの提案ではありません。プロデューサーが劇映画と別に、ぼくのリアルな面も撮ろうと言い出して、渋々撮られることになりました。こちらは毛利安孝監督が2カ月ほどぼくに密着してくれて。

 ぼくの毎日って、1日で映画が何本も撮れるくらいいろんな物語があります。その中で、ぼくのかっこ悪いところばかり集めたドキュメンタリーになっちゃった(笑)。あれを観ると「ホンマ、アホで間抜けな医者やな!」と思われるでしょうが、実際はほとんど真面目なんですよ。

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――先生の公式ホームページ「長尾和宏オフィシャルサイト」も、とても明るいイメージです。

長尾 やっぱり、がんとか認知症とかのシルバー世代の家族とたくさん接していると、考えるんです、「人間はなんのために生きているのか」って。病気であっても、人は楽しむために生きてる。楽しむとは、例えば食べたり、話したり、笑ったり、旅行したり……ということでしょう。老人は落ち込んでいる人が多いけど、それをちょっとでも明るくしたい。

 今年はコロナでできないけど、ぼくのところでは、普段、1年中イベントをやってるんです。春はお花見して、夏も、秋も、冬もイベントをやって、なにかと集まっては一緒にご飯を食べて。ドキュメンタリー映画には、コロナ前にやったクリスマス会の様子が出てきましたけど……あの2日後くらいに、あそこに来ていた人が亡くなりました。つまり、ぼくたちは、死ぬ直前までみんな歌ったり、しゃべったりして楽しんでいる、というわけです。

映画『けったいな町医者』より、衣装とカツラを着け歌う長尾先生 ©️「けったいな町医者」製作委員会

患者さんを「看取る」こと

――ドキュメンタリー映画『けったいな町医者』では先生がたくさん歌を歌われてましたね。あんなに働いている間に、イベントで歌まで披露して。長尾先生はとにかくパワフルだという印象を受けました。

長尾 ずっとあんな感じです。結構ハードな毎日です。在宅医は1000人看取ったら自分が死ぬ、なんて言われているんです。うつ病になったり、心臓が止まったり、って。ぼくはとっくに看取り数が1000人を越えているし、看取りを夜中に2回する日だってある。365日、24時間、ぼく1人で約600人の患者からの電話を受けています。夜は夜で、毎日まさに“夜回り先生”をやってるんですけど、地方出張で往診できない時は、ぼくのクリニックに勤務しているセカンドコールのドクターに電話します。

――セカンドコールの先生というのは、今後、先生と同じ道を継承していく方でしょうか?

長尾 いや、セカンドコールというのは、ぼくからだけ連絡が行くお医者さんのこと。看取りは、年間140~150人くらいあるから、2日か3日に1人くらいの割合になる。今日みたいな出張の日に当たったら、ぼくがまず電話でお看取りをするんです。「今、何時何分、お亡くなりになりましたね。これから○○先生が行きますからね」と、ご家族にお話をつけてから、そのドクターに深夜か翌朝一番に看取り往診をしてもらう。でも、代わりに行ってもらうのは年3、4回くらいかな。