町医者は、断片でなくその人の“物語”をみる
――先生の言葉に「町医者は、断片でなくその人の物語をみる」というのがありましたよね。
長尾 医者も生身の人間です。医療で、医師と患者が出会って、通じ合えたらいい。そして白衣を脱いで、人間対人間の関係になれたらもっといい。昔でいう『赤ひげ(※)』みたいに。『赤ひげ』なんて、もう昔話みたいになっちゃったけど、やっぱり人は、最後は赤ひげみたいな人を求めるんじゃないかな。
(※『赤ひげ診療譚』。貧しく病む者とそこで懸命に治療する医者との交流を描く、山本周五郎の小説)
――さて、お名残惜しいのですが、そろそろお時間になってしまいました。ここで最後に読者にメッセージをお願いします。
長尾 自分のやってきたことが映画になるって、まだ夢みたいです。今回2本も映画を作っていただきました。ドキュメンタリーだけでなく、劇映画の方も全部ぼくに起こったリアルな出来事です。ぼくはたくさん本を書いてきましたが、文章だけでは伝わりにくいこともあります。でも今回、映像の力、映画の力、役者が演じる力はすごいな、と改めて感じています。
本もそうですけれど、映画ってやっぱり何かを伝えるためにあるでしょう? ぼくは多くの人に伝わることを願いながら本を書いてきました。
だからぼくは「この映画でみなさんにこうやってお伝えするために、37年間医師としてがんばってきたのかもしれない」と思えるくらいうれしいんです。劇映画もドキュメンタリーも、ぜひ両方観ていただいて、「死ぬこと」と「生きること」について、みなさんに考えて、語り合っていただけたら幸いです。
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映画『痛くない死に方』と『けったいな町医者』は、どちらも2月公開。「表現」の劇映画と、「リアル」なドキュメンタリー。どちらも「在宅医療」と「がん末期患者の平穏死」という同じテーマを扱っていて、互いに補完し合っている2本だ。
また、映画を観て「在宅医療」や「平穏死・尊厳死」に興味を持った方は、知識を整理するために、原作本がとても役に立つので手にとってみてはいかがだろう。
書籍『痛い在宅医』は、在宅医療で父が苦しんで亡くなったことを後悔している娘さんと、長尾医師の対談が主たる内容。受けた在宅医療のどこに問題があったのかを振り返る形で「平穏死・尊厳死」について伝えている。
一方、書籍『痛くない死に方』では「平穏死・尊厳死」と「安楽死(日本では違法)」の違いを明確に定義し「どうすれば痛くない死に方を叶えられるか」をわかりやすくまとめた、いわば指南書。
どちらも「在宅医療」や「平穏死」への理解を深めてくれるだろう。
(取材・編集:市川はるひ)