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「都合よく治らない」ということ。痛みを徹底的に「ちゃんと」描くということ。このルールを守っているからこそ、出久が鍛錬を積み、少しずつ戦闘力が上がっていっても、根底のリアリティが消えることはない。

ライバル同士が駆け上がっていく構造の美しさ

 また、出久のライバルである爆豪勝己においては、「心の成長」を丹念に描いている。

 天才タイプがゆえに、落ちこぼれの出久をいじめていた勝己が、挫折を繰り返しながら少しずつヒーローの器へと近付いていく過程は、「心に身体が追い付いていなかった」出久の対義であり、両者が心身ともにヒーローとして駆け上がっていく構造が美しい

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 主人公のライバルを、序盤では完全に「嫌な奴」として描くというアプローチも、かなり挑戦的だ。

 身体がボロボロになっていく出久と、精神が追い込まれていく勝己。さらに直近の展開では、バトルの過酷さが一層増し、敵キャラクターが抱える闇(それぞれの過去がなかなかにエグい)や、戦いのさなか手足が吹き飛ぶなど、人体損壊が発生するハードな描写もエスカレート。

 王道漫画のトップランナーとして、どこまで攻め続けられるのか。期待しつつ見届けたい。

2.『呪術廻戦』

「人は死ぬもの」圧倒的な現実感が立ちはだかる

『呪術廻戦』(芥見下々) 1~最新14巻/集英社

 その堀越氏に、「次にジャンプを背負っていく漫画です」と言わしめたのが、絶好調の『呪術廻戦』だ。本作は、「人を襲う“呪い”と、呪いを祓う“呪術師”の戦い」を描いた物語。

「呪いの王・両面宿儺」の指を食べたことで宿儺を内に宿すことになった高校生・虎杖悠仁が、呪術師を育成する東京都立呪術高等専門学校に入学し、戦いの日々に身を投じていく。

 ベースにはしっかりとしたバトル漫画の面白さがあるが、死生観が実に先鋭的。読む者に新たな価値観を与える野心作といえる。

『呪術廻戦』の前提にあるのは、「人は死ぬもの」という圧倒的な現実感だ。バトル漫画の多くは「絶対に死なせない!」という信念のもとで動くものだが、虎杖においては「人は死ぬもの。だからこそ、“正しい死”に導きたい」が行動理念になっている。