半グレ役、若手俳優の磯村勇斗さん
――若手では、半グレの「翼」を演じた磯村勇斗さんの存在感がすごかった!
藤井 ヤクザから半グレへと時代が変わった感じが、磯村さんのおかげで強く出ました。最初に会ったときは、すごくしなやかな印象でした。でもこの映画では彼は地下格闘技をやっている半グレの役なので、僕が「体をバキバキにしてください」とお願いしたら、忙しいなかで、ほんとうにそういう体つきになってきてくれました。磯村さんはこの映画に賭けてくれたんだと思います。
役作りだけでなく、芝居についてもいろんな俳優の方とやっていくことで、撮影中にどんどんよくなっていきました。だから映画を見た人たちの彼への評価が高いのが、僕はものすごく嬉しいですね。
――女優では「山本賢治」が心を寄せるホステスを演じた尾野真千子さん。綾野さんとの掛け合いに爆笑してしまいました。
藤井 僕の台本のなかでは、ホテルに呼び出された尾野真千子さんに「こういうところ来るってことはそういうことだろうがよ」と綾野さんが言うと「ママから言われてきただけですから」と言い返され、「口論が始まる」と1行書いただけなんです。そこから先は2人に、アドリブで自由に言い合いをしてもらいました。
こうした演出をしたのには理由があります。「山本賢治」の人生をちゃんと見てもらいたいと思ったときに、彼の感情がたくさん動く映画にしたかったからです。そうやって、きちんと1人の人間として彼を描きたかったんです。
描きたかったのは、人間の繊細な「弱さ」
――監督の話を聞いて、フィクション、あるいは劇映画の意義がわかってきました。
藤井 僕がこの作品で描きたかったのは、人間の繊細な「弱さ」です。最終的に「山本賢治」という人間に共感してもらいたい。ヤクザと呼ばれる人たちの人権がどんどん奪われていくなかで、これはヤクザだけの話じゃないんじゃないか。今の自分たちにも通じるところがあるんじゃないか、あるいは自分の大切な人たちとどう生きるか、正しさとはなんなのか。そうしたことを「山本賢治」の20年を見ることで感じてもらいたい。それがこの映画、『ヤクザと家族 The Family』なんです。