観客を描くのが大変なときは…
――このシーンがなかなか決まらない、なんてことも?
石塚 はい。原稿を描き終わった後、NUMBER8さんからチェックが入るんですよ。特に表情は直しがよく入るんですけど、「役者が下手だな」とかグサッと言われて(笑)。でも、自分では分からないことを言ってもらえるので助かっています。
表情と言えば、大勢の観客を描くのが大変なんですけど、めげそうな時はちばてつや先生の相撲マンガ(『のたり松太郎』)を見るんです。国技館のお客さんひとりひとりが違う表情をしていて、見るたび「先生、がんばります!」ってなるんです。
――『BLUE GIANT』は、紙面から音楽が聞こえてくるとよく言われますが、その辺りはいかがですか?
石塚 よくそう言っていただくのですが、読者の皆さんの想像力が豊かなんだなと思っています。僕は「音になってくれ!」と思いながら描くぐらい。音の表現ってたくさんあるじゃないですか。例えば、オートバイマンガ。爆音で突き抜けていく感じとか、スピード感なんかはすごく参考になっています。
――それで効果線が多いんですね。
石塚 言葉は悪いんですけど、いい表現はパクるようにしていて、その先生に直接「パクった後になんですけど、参考にさせてもらいました!」と言うようにしています。ありがたいことに、いまのところ「このやろう!」と言われたことはないですね(笑)。
――大もいろんな音を吸収したいからと世界を巡っていますが、石塚さんも新しい表現を探し続けていらっしゃるんですね。別人格だと仰りつつ、重なる部分もあるんだなと。
石塚 正直、演奏シーンを描くのは辛いんです。その半面、「辛い」「しんどい」と思う内は間違ってないんだろうなとも思っていて。「これでいいや」になってしまったら、そこで止まってしまうじゃないですか。だから、1巻の時からずっとしんどいです。むしろもっとタフになっているような……。そこは大と一緒ですね。
――大が演奏中に放つ熱量もすごいです。発熱しているみたいで。
石塚 実際にジャズを見に行って感動する時って、プレーヤーは「この人、死んじゃうんじゃないの?」と思うようなプレイをするんですよ。