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「才能なんてないと思いたい。でも…」累計650万部超え、“アツすぎる”音楽マンガ作者が語る「ゾッとする残酷さ」

『BLUE GIANT EXPLORER』作者・石塚真一さんインタビュー#1

2021/02/25

握手するシーンばかり描いていて「現実と乖離してきているな」と

――現代を描いている長期連載中のマンガ家の皆さんが悩ましく思っていると思うのですが、新型コロナの影響や描く上でのモードの変化はありますか?

石塚 大は日本を出てからいろんな人と出会っては助けられているラッキーな男で、僕は握手するシーンばかり描いているんです。こういう状況になってきて、「現実と乖離してきているな」と思いながらも、大は相変わらず握手してますね。

 東日本大震災のときは『岳』を描いていて、「このまま空想の世界を描いていていいのかな?」と思ったことを覚えていますが、いまのところ「エクスプローラー」にマスクが出てくる予定はないです。

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『BLUE GIANT EXPLORER (1)』より ©小学館

――「シュプリーム」はそれこそ舞台となるヨーロッパでクルマを運転しながら土地の空気感や距離感を掴んでいらしたそうですが、いまは現地取材が叶わないわけですよね。

石塚 学生時代はアメリカにいて、友達とクルマでアメリカ中をぐるぐる廻っていたんです。今はネットもあるので、当時の感覚と重ねながら描いている感じですね。もちろん取材に行けたらいいんですけど……。

「シュプリーム」に大たちが北極圏に行くシーンがあって、実際にクルマで走ってみたんですけど、アメリカ内での移動に比べたら北千住に行く感覚でした(笑)。いや、もちろん遠いんですけど、案外行けちゃうなぐらいの感覚で。

――あはは。距離感やスケール感を体感されているからでしょうか。石塚さんの作品を読んでいると、街や建造物が登場人物を活かすための背景ではなく、そちらも主役なんだという気がします。

石塚 そうなっていたらいいんですけど。街の空気感は大事にしたいところですが、音を表現するより難しいですね。

――そうなんですね。演奏シーンのポージングにも相当こだわりがあるそうで。

石塚 プロの体の使い方ってあると思うんです。サックスも構え方があって、ほんのわずかな角度で大きく印象が変わったりしますから。

『BLUE GIANT EXPLORER (1)』より ©小学館

――ご自身でもサックスを吹かれるんですよね。

石塚 学生時代から趣味で吹いていたのと、ジャズが好きで見に行っていたのとが作品を描く上で役立っています。とはいえ、ピアノやドラムと違い、主人公の楽器は指とくっついちゃっているので、派手な動きを描きづらくて。熟達度を細かいところで表現するしかなくて、もっと新しい角度はないか、もっと新しい表現はないかと常に思いながら描いています。