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「才能なんてないと思いたい。でも…」累計650万部超え、“アツすぎる”音楽マンガ作者が語る「ゾッとする残酷さ」

『BLUE GIANT EXPLORER』作者・石塚真一さんインタビュー#1

2021/02/25
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楽器屋の1階が全て管楽器になったら、野望達成です

――そもそも、『BLUE GIANT』を描き始めたのは、少しでも若い方にジャズを好きになってもらえたらという思いがあったからだそうですが、その野望はどれぐらい達成できたと思いますか?

石塚 まだまだです。大きい楽器屋さんの1階って、だいたいギター売り場じゃないですか。日本の住宅事情もあると思いますけど、1階が全て管楽器になったら野望達成ですかね。それぐらい大胆に考えていないと、何も変わっていかないと思うので。

 あとは、紅白歌合戦にジャズのコーナーができるぐらい盛り上がるといいですね。

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――昔から「日本人にはジャズが分からない」という人もいます。その辺りはどう思われますか?

石塚 僕は分かると思います。特にお子さん。3、4歳だと厳しいかもですが、5歳以上なら十分楽しむと思います。「あのベースの低音が」みたいなことを言えるのもジャズですが、何も知らなくても楽しめるのもジャズ。ジャズはでっけーぞって感じです。

――「シュプリーム」にも練習中の大に見入る小さな男の子のエピソードがありました。『BLUE GIANT』の巻末には、大が今まで出会ってきた人が、のちに大のことを語るインタビューが入っているじゃないですか。あの男の子が青年になってジャズをやっていると知った時、グッときました。

石塚 「すげーな、このお兄ちゃん」ってところからジャズに興味が湧いちゃって。あの子はいい子でしたね。

『BLUE GIANT SUPREME (6)』より ©小学館

「ジャズはブラックの人たちの音楽だ」という人もいますけれど、僕がいろんな国のジャズを聞いて感じたのは、みんなジャズしてて、みんないいってこと。アフリカン・アメリカンの人たちのDNAに刻み込まれたリズムみたいなものはあるのかなと思うことはありますけど……でも、関係ないんじゃないかな。やりたい人がやるのが一番。

――ですね。では、大統領選やBLMなど近年のアメリカを見るに、分断が進んでいるように感じますが、そういった部分が作品に出てくることはありそうですか?

石塚 僕がアメリカに居た時も、映画館で乱闘が起きたり、長距離バスでいざこざが起きたりしていました。これを、アメリカが向き合い続けなければならない宿痾だという人もいます。そこをフィーチャーするわけではないですけど、僕自身も必要だと思っているので、ちょっとは出てくると思います。

 

 大が「僕は日本人として演ってきたけど、この壁はどこからくるんだろう?」と思う日が来るかもしれません。

――大にも壁がくるんですね……。

石塚 「シュプリーム」の最後の方に、大は負けることを知らない、みたいな話が出てくるんですけど、アメリカはそう簡単なもんじゃないぞと。でも、試練はいいことだと捉えて、明るく乗り切ってほしいですね。