「才能なんてない」と思いたい。でも…
――ですね。大の明るさは救いですが、彼が不安に捕らわれないのはなぜなんでしょう?
石塚 特殊ですよね。「コイツ変わってんな~」と思いながら描いています。時に残酷だけど、誠実だったり、真摯だったり。謎なんですよね。少なくとも、家庭環境は恵まれてると思います。兄ちゃんに愛されて、父ちゃんも頑張り屋で。
――妹もかわいいですよね。
石塚 前向きなのは、根幹にそれがあるのかもしれません。あとは、明るい方しか向きたくないタイプなのかな。ある時から、「僕は暗くならないんだ」と決めているのかもしれません。お母さんが死んじゃった時なのか、タイミングはわからないですけど。まあ、変な人ですよね。ずーっと練習してる。
――雨でも、渡欧初日も、渡米初日も練習してますよね。どんな時でも己に勝ち続けるってすごいと思います。
石塚 このマンガに練習シーンがよく出てくるのは、僕が見てきて胸打たれたミュージシャンが練習の虫だからなんです。で、本番は何も考えずにすごい演奏をする。大も練習の虫。1日ぐらい休めよと思いますけど、彼が吹きたがるので、「そうかそうか。じゃあ描くよ」って感じで背中を追いながら描いています。
――プレイの説得力に繋がりますよね。先ほど、大には残酷なところがあるという話が出ました。たしかに「エクスプローラー」には、諦めていた音楽でもう一度やっていこうとした男性が、大のプレイに打ちのめされるシーンがあります。石塚さんも、才能とは時に残酷なものだと思いますか?
石塚 希望としては、才能なんてないと思いたいんです。努力すれば、みんな壁を越えられるんだと。一方で、才能ってあるかもなと思う時があります。両方ですね。
さっきの大に打ちのめされた人の話を超極論で言うと、ピアノ、サックス、ベース、ドラムのトッププレーヤーが各一人いればいいってことになるじゃないですか。それって、ゾッとするぐらい残酷な話ですよね。
『BLUE GIANT』では、“個”と“バンド”をいったりきたりしていますが、それは、みんなでやることのよさもあるけれど、自分のプレイを突き詰めたい思いも同時にあるからで。どちらかというと、大の場合は「個」が強いのかな。