大衆そば・立ち食いそばの概念を近年、大きく変えた店といえば「港屋」をおいてないと思う。「港屋」は従来のそば自体の作り方を変えてしまった。つけ麺スタイルを提案し、安い・駅近・早いという騒然とした立ち食いそば屋のイメージも一新させた。

毎日行列が絶えない

立ち話スタイルで60分インタビューに成功

 港区虎ノ門の愛宕近くの交差点にそば処「港屋」ができたのは、2002年の夏。当時は真っ黒な外観だった。

 2017年の秋、久しぶりに「港屋」を訪れた。周辺は虎ノ門ヒルズができてずいぶんと様変わりした。外観は黒からライトグレーに変わっている。お昼前に到着すると、すでに外には長い行列ができている。店内は暗めの照明で黒いシックな内装。大きな黒いテーブルを囲んで、男女が黙々と蕎麦を食べている。クラシックが流れているのは昔のままだ。

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 この独特のスタイルを完成させた人はどんな人なのか。店主の菊地剛志さんが店内で、60分にわたって語ってくれた。

菊地剛志さん

27歳で銀行マンから独立しました

――菊地さんは脱サラと聞きましたが?

菊地 27歳で独立しました。その前は銀行マンでした。この経験はすごく大きかった。銀行マンをやっていなかったら、お金の勘定もできなかったでしょうし、「商売」ができなかったと思うんです。

――お店を始めるきっかけは何かあったんですか?

菊地 実は美大に入りたかったんです。昔から自分で何かを創造したくて。それはアートでもガーデニングでも、何でもよかった。それで行き着いたのが、そば。

――え? そばも「創造」なんですか?

菊地 普通の細麺のそばを打って、繊細な味のそばの懐石をやるような選択肢もあったわけです。でもいまの姿を選んだ。ザクッとした少し遊び心のある、爆発したアート感のあるそばの方が面白いでしょう。

立ちそば店とは思えない店内