黒い壁、暗い照明にした理由
「港屋」のメニューは潔く、もりそば系と冷たい肉そば870円、温かい鶏そば870円だけである。「冷たい肉そば」はラー油がかかったたっぷりの冷たいつけ汁と、豚バラ肉、大量の刻み海苔、ゴマ、ねぎが載ったそばである。卵、あげ玉はサービスだ。
――ところで、どこかで修業とかされたんですか?
菊地 まったくしていません。完全に独学です。大学生の時は、新宿のかめやさんで立ち食いそばを食べたりしていましたけど、そのくらいで食べ歩きも特にしていない。でも、もし修業したり、大きな組織でそば屋を開業していたら、今の味は絶対に作れなかったと思います。そばのシキタリを知らなかったからこそできたという部分は大きいと思います。
――お店の外観も特徴的だし、中は黒く落ち着いた雰囲気ですよね。なぜこのデザインにしたんですか?
菊地 店のデザイン、色調、外観、レイアウト、すべてを自分で考えたんです。もちろん、このそばに合うデザインということです。黒い壁、暗い照明にしたのもそばに集中して食べてもらいたいからです。
――外観やおそば以外で、特にこだわっている部分はありますか?
菊地 ここで使っている食材はすべて特注なので、既製品は使っていません。例えばこの海苔も特注。食べてみてください。ね、しっとりとした香りのよい海苔でしょう。これを探してくるのも大変でした。
――厨房にもこだわりがありそうですね?
菊地 この厨房の火力も通常の仕様ではありえないものなんですよ。通常の火力ならそばのゆで時間は3分以上はかかるでしょう。それでもおいしいんですが、シャキっとしたコシを出すことができなかったので、強い火力で茹でています。