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筒美京平さんの「作曲の秘密」を知ってしまった旅行先でのウォークマン「ネタ音源事件」

筒美京平さんの「作曲の秘密」を知ってしまった旅行先でのウォークマン「ネタ音源事件」

『調子悪くてあたりまえ 近田春夫自伝』#2

2021/02/11
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京平さんに頼むしかないな

 バンドマンというと「飲む・打つ・買う」というイメージがあるかもしれないけど、俺は「打つ」「買う」とは無縁。「飲む」に関しても、店に行って飲むのは好きじゃなくて、自販機なんかでビール買って、その辺のベンチに座って飲む方が性に合ってるんだ。別に人嫌いってわけじゃないけれど、夜の付き合いみたいなものにも関心はなかったな。

 77年8月には、近田春夫のソロ名義でシングル「ロキシーの夜」をリリースした。

ロキシーの夜
恋のT.P.O.

 筒美京平風に作った「恋のT.P.O.」がまたもや売れなかったものだから、今度は本当に京平さんに頼むしかないなということになって、曲を書いてもらったの。

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 あの曲では、俺は編曲にも演奏にも関わらず、シンガーに徹している。バックはハルヲフォンじゃなく、スタジオミュージシャンなんだ。島武実の書いた詞は女言葉だったから、やっぱり最初は恥ずかしかったね。

 B面の「闇にジャックナイフ」は、どうしても俺の声とキーが合わなかったから、恒田に歌ってもらった。だから、B面は俺のソロじゃなく、ハルヲフォン名義になっている。その辺、適当だし、あんまり意味はないのよ。ただ客観的に見ると、俺のディスコグラフィーにおいて、なぜあそこにソロの楽曲が無計画に入ってるのかは謎かもしれないね。

SO IN TO YOU

「ロキシーの夜」の元ネタは、アトランタ・リズム・セクションの「So In to You」。俺、京平さんはすげえな、よくここからパクってくるよなって、昔から感心してたの。知り合ってからは、よく「あの曲の元ネタはあれですよね?」って本人に聞いて、答え合わせしてたもん。

筒美京平の秘密

 これは80年代に入ってからの話になるけど、京平さんと仲良くなって、一緒に旅行に行く機会があったんだ。俺も京平さんも、当時発売されたばかりのウォークマンを持って来てたから、飛行機の中でお互いのカセットを交換したのよ。

筒美京平1972年 ©共同通信社

 それを聴いてみて驚いた。京平さんのカセットにはリアルタイムの洋楽のヒット曲が詰まっているんだけど、全曲、イントロから一番のサビまでしか入ってない。つまり、あくまでも資料と割り切って聴いてるんだね。筒美京平の秘密を知ってショックを受けたよ。やっぱりこの人は真のプロだな、俺なんか本当にアマチュアに過ぎないなと心底思い知らされたよ。