一方、かつて詩織の住んでいた千葉。その周辺市町村にも詩織のほかにも多数の中国人花嫁はいる。そうしたひとりの中国人女性を知っている地元の人がこう感心しながら話をする。
「今は40歳代後半の中国人花嫁。あの事件を犯した中国人女性よりもずっと前に日本に来た。もちろん周りにはほとんど中国人妻などいなかった時代。最初は言葉も分からない。しかも日本人の旦那が30歳代で病死してしまう。でも残された彼女はとにかく働き者。パートと工場づとめで朝と夜別々の仕事をやりながら馬車馬のように働いた。しかも文句もいわずいつもニコニコしている。ひとり娘がいたのだが、この子は一生懸命勉強もしていて優秀だったため高校を出ると市役所の職員になった。立派に子どもも育てたということさ。今もとにかくその元中国人の彼女は良く働いているが娘が安定した職場に入ったので、今はますます笑顔が良くなり幸せそうだ。最初は中国人花嫁と奇異な眼で見てた周囲も、その勤勉さに、本当にたいしたもんだと褒めちぎっている」
こうした面で彼女たちは逞しいし、徹底した現実主義者でもある。
犯罪グループと貧困が若い女性を売り物にする
ここで中国の女性と日本の男性の、斡旋業者を介在させた国際結婚についてもう少し詳細に触れておこう。その事情は、詩織の犯罪と直結するものではないが、彼女の思考や行動規範に何らかの影響を与えていると思えるし、同様の国際結婚における多くのトラブルの背景になっているのは間違いないからだ。
まず元国際結婚斡旋業者の衝撃的な話から紹介する。
「中国の農村部で売買婚が行われているのは公然の秘密です。そうした中で言葉が出来、少し才覚のある人間が、日本や韓国など、嫁不足に悩む豊かな国の男性に、お見合いという形式を通して、若い娘を売りつける方法を編み出したのです。一方に、それを受け入れる日本なり韓国の組織が存在したのはいうまでもありません。彼らが親元に支払う金は2万元前後(約25万円)だそうですから、驚くほど安い金額ですが、明日の生活費にもこと欠く貧農地帯では、それで一家が数年間食っていけるのですから、つい甘い言葉に乗せられてしまうのでしょう」